第27話「禁断の強さ」



 ノクス団の残党が倒れ、森は再び静けさを取り戻した。

 白銀の弓を消したカルネは、月明かりの下で一度だけ髪を整え、静かに振り向いた。


「――そこにいるのでしょう、髙野くん」


「っ……!」

 完全に気付かれていた。

 木の影から顔を出した佑真は、気まずそうに頭を下げる。


「す、すみません……! つい……」


「いいのです。あなたなら、いずれ目にすることになるでしょうから」


 カルネは夜風に髪を揺らし、まるで舞台の上の女優のように佇んでいた。

 その美しさと、さっきまでの圧倒的な強さの落差に、胸が高鳴る。



---


 だが、好奇心が勝った。

 佑真は一歩前に出て、次々と口を開く。


「い、今の……何をしたんですか!?

 メガシンカしながら……エンゲージギアまで発動して……!

 そんなこと、できるんですか!?」


 カルネは少しだけ目を細め、微笑む。


「できるわ。

 メガシンカはポケモンの潜在能力を解放する現象。

 そして、エンゲージギアはあなたとポケモンの心を重ねる現象。

 条件が揃えば、二つを同時に扱うことも可能なのです」


「す、すごい……! じゃあ、グレイシアも……メガシンカできれば……」


「理論上は可能でしょう」

 カルネはゆっくり首を振る。

「ですが、ハードルはとても高い。

 あなた自身がさらに強く成長し、グレイシアとの絆を今以上に深める必要があります」


 隣のグレイシアが「グレイ……」と小さく鳴く。

 その声が、静かな決意のように聞こえた。



---


「カルネさん……僕も、あんな風に戦えるようになりたいです」


 思わず口に出していた。

 カルネはしばし佑真を見つめ、やがてゆるやかに微笑んだ。


「ならば、まずは自分の恐怖と向き合うことね。

 今日、あなたは初めて――この世界の残酷さを見たはず」


 胸がちくりと痛む。

 白銀の弓に貫かれたノクス団員たちの姿が、脳裏に焼き付いて離れない。


「……はい。でも……それでも守りたいんです。

 グレイシアと一緒に、この街も、この世界も……!」


 カルネは満足そうに頷くと、月明かりを背に歩き出した。


「その意志があるなら――必ず道は開けます。

 あなたも、いずれ“あの領域”に辿り着けるでしょう」



---


 夜風に髪をなびかせるカルネの背中を見送りながら、佑真は胸の奥で誓う。


(俺は――必ず、グレイシアと並んであの強さに届く)


 グレイシアが足元で静かに鳴き、月明かりに毛並みがきらめいた。




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