第23話「赤黒い閃光」


 夕暮れの街を切り裂くように、暴走したラティアスが旋回していた。

 赤い光をまとい、悲鳴のような鳴き声を響かせる。


「キャアアアアッ!!」


 その声に市民は混乱し、逃げ惑う。

 誰かが叫ぶ。


「な、なんだあれ……! 飛んでる……ポケモン……?」

「撮れ! 動画だ、動画……!」


 スマホを構える人々。

 オルディナス機関の存在が露見する危機に、綾杜が顔を歪める。


「まずい……これ以上騒がれたら、任務どころじゃない……!」


「言ってる場合かよ!」裕太が吠える。

「街が吹っ飛ぶぞ! ライチュウ、かみなりだッ!」


 稲妻が夜空を裂き、ラティアスに直撃する。

 しかし赤い竜は怯むどころか、逆に怒り狂ったように光を溜め始めた。


「ミストボール……来るぞ!」総士の声に、全員が身を固める。


 光弾が放たれ、ビルの壁面を吹き飛ばす。衝撃波が通りを揺らした。


「グレイシア、れいとうビームで軌道逸らせ!」

「グレイッ!」


 氷の光線が光弾をかすめ、ビルの影に逸らすことに成功した。

 だが、暴走は止まらない。



---


「もう……限界か……!」佑真が歯を食いしばる。

 そのとき、空の彼方から低い鳴き声が響いた。


「ラァァァ……!」


 青い光が一直線に降り注ぎ、ラティアスの前で止まる。

 その姿を見て、誰もが息を呑んだ。


「ラ、ラティオス……!」


 青い兄のような竜が、妹を守るように旋回する。

 鳴き声で呼びかけると、ラティアスの目の赤い光がわずかに揺らいだ。


「……落ち着け……ラティアス……!」

 佑真は祈るように呟く。


 ラティオスがそっとラティアスの額に触れると、赤い光が静まり、二匹はゆっくりと寄り添った。

 空に漂う二つの影を見て、街の人々も静かに息を吐く。


「……よかった……」

 綾杜が安堵の息をつき、ニンフィアが「ニン……」と鳴く。



---


 二匹はゆっくりと旋回し、夕焼けの空へ飛び立とうとしていた。

 佑真たちはただ、その美しい背中を見送る。


「ありがとう……また、どこかで……」

 佑真は胸の奥で呟く。


 ――その瞬間だった。


 空が赤黒く染まり、耳を劈くような咆哮が響いた。


「ギャアアアアアァァァッ!!」


 赤黒い閃光が二匹を包み込む。

 次の瞬間、ラティアスとラティオスの姿は消えていた。


「な……消えた……!?」


 全員が言葉を失う中、総士だけが空を睨んでいた。

 赤黒い光の中に、巨大な黒い鳥の影を見たのだ。


「今の……イベルタルだ……!」


「イベルタル……!?」


 誰もが息を呑む。

 何が起こったのか、誰にも分からない。ただ一つだけ確かなのは――


 この街で、伝説同士の戦いが始まろうとしているということだった。




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