第22話「暴走する伝説」


 耳をつんざく警告音が工場内に響き渡る。

 赤い警告灯が点滅し、抑制カプセルのロックが外れる音がした。


「……やばい、装置が壊れるぞ!」

 総士が顔をしかめる。


 次の瞬間、金属を裂くような轟音。

 カプセルの中から飛び出したのは、小柄な赤い竜――ラティアスだった。


「キャアアアァァァッ!!」


 甲高い鳴き声とともに、強烈なサイコパワーが周囲を弾き飛ばす。

 近くにいたノクス団の団員も、壁に叩きつけられ気絶する。


「うわっ……グレイシア、下がれ!」

「グレイッ!」


 白銀の体が素早く佑真の前に飛び出し、冷気を纏う。



---


 暴走したラティアスは、目に入ったものすべてを敵と認識しているようだった。

 空中を旋回しながら、サイコキネシスで鉄骨を引きちぎり、工場を粉砕していく。


「くそっ、街に出られたら大惨事だぞ……!」

 裕太が歯を食いしばる。肩のライチュウが「ライッ!」と短く鳴いた。


「ジュカイン、リーフストームで進路を塞げ!」

 総士の声に、緑の嵐が巻き起こる。しかしラティアスは軽やかにかわし、逆に衝撃波で吹き飛ばしてきた。


「ニンフィア、マジカルシャイン!」

「サーナイト、サイコキネシスで補助!」


 綾杜の二体が同時に攻撃するが、暴走の力は圧倒的だった。

 光と念力を浴びても、ラティアスは痛みを忘れたように突っ込んでくる。



---


 その瞬間、天井を突き破る轟音が響いた。

 ラティアスが外へ飛び出したのだ。

 夕焼けの空に赤い軌跡が伸び、街の方角へ向かう。


「やばい……街に……!」


 佑真たちは後を追い、崩れた工場を抜け出す。

 夕陽に照らされた市街地の上空を旋回する赤い影――街の人々が指をさしてざわめき始めた。


「な、なんだあれ……!」

「ポケモン……? 見たことないぞ!」

「うわぁっ、こっちに来る!」


 悲鳴と混乱が広がり、スマホを構える人々もいる。


「まずい……!」綾杜が顔を歪める。

「機関の存在がバレたら、今後の動きが制限される……!」


「そんなこと言ってる場合じゃねぇ!」裕太が叫ぶ。

「落とさなきゃ、街が被害受けるぞ!」


「……でも、倒すわけにはいかない。伝説ポケモンだ」総士が低く言う。

「鎮めるんだ……傷つけずに」



---


 ラティアスが悲鳴のような声を上げ、ビルの壁面をサイコキネシスでえぐった。

 コンクリート片が宙を舞い、通行人が悲鳴を上げる。


「グレイシア、れいとうビームで牽制!」

「グレイアッ!」


 氷の光線がラティアスの翼にかすり、白い霜が広がる。

 動きが鈍った一瞬を狙い、仲間たちも同時に動く。


「ライチュウ、かみなり!」

「ジュカイン、ツタで足場作れ!」

「ニンフィア、しっぽで市民をガード!」


 新人チームは必死に連携し、市民を避難させつつラティアスを空中で追い詰める。

 だが、暴走した伝説の力は桁違い。冷気と電撃と光を浴びても、ラティアスは止まらない。



---


 街の混乱は限界に達しつつあった。

 機関の隊員が到着する前に、何とかしなければ――。


「佑真くん、今が正念場だ!」綾杜が叫ぶ。

「心を一つにしよう、グレイシアと!」


「……ああ!」


 佑真は右手に氷の粒子を集め、短剣を握りしめた。

 その背後で、ラティアスが再び悲鳴を上げ、街の上空で光を溜め始める。


(このままじゃ……街が――)


 次の瞬間、空が赤く染まった。




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