第21話「廃工場の罠」


 夕焼けの中、郊外に佇む錆びついた廃工場。

 薄暗い内部に、五人の影が慎重に足を踏み入れた。


「ここが……初任務の現場か」

 佑真はゴクリと唾を飲み込む。

 グレイシアが「グレイ……」と低く鳴き、冷たい床に爪を立てた。


「気を抜くなよ、反応は一つだけのはずだったけど……」

 総士が目を細める。「足跡の数、多すぎる」


「マジかよ。俺、こういうのワクワクするんだよな!」

 裕太は笑いながらライチュウの頭を撫でる。肩の上のポケモンが「ライッ!」と短く鳴いた。


「ワクワクしてる場合じゃないよ、裕太」

 綾杜は周囲を見渡しながら静かに言う。「心を乱さないで。呼吸を整えておこう」



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 奥へ進んだ瞬間、鉄骨の陰から複数の気配が現れた。

 赤黒い制服――ノクス団の団員たちが十人以上、次々と姿を現す。


「……やっぱり、罠か」総士が呟く。


「やっと来たか、オルディナスのガキどもが!」

 前に出た団員が指を振ると、暗闇からポケモンたちが飛び出した。


「ガブリアス!」

「オンバーン、空から行け!」

「カジリガメ、突撃!」


 同時に、後方からはハクリュウ、ゴルダック、ギギアルの影も現れる。

 圧倒的な数と迫力に、佑真の喉がひゅっと鳴った。


「マジかよ……これ、初任務だよな……!」


「グレイ……!」

 グレイシアが背中を押すように鳴く。


「来るぞッ! 全員、構えろ!」



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 最初に飛び込んできたのはガブリアスだった。地を裂くようなスピードで佑真に迫る。


「グレイシア、回避っ!」

「グレイッ!」


 白銀の体が横に跳び、刃のような爪を紙一重で避けた。

 その背後で裕太が叫ぶ。


「デンリュウ、10まんボルトだッ!」


 稲妻がガブリアスに走る。しかし、相手は俊敏に跳び退いた。

 その上空からはオンバーンの強烈な音波が降り注ぐ。


「耳塞げ、ライチュウ!」

 裕太は歯を食いしばりながら耐える。



---


 後方では総士が素早く指示を飛ばす。


「ジュカイン、リーフストームで前衛を分断!」

「ジュカッ!」


 渦巻く葉の嵐が工場内を駆け抜け、視界を切り裂く。

 だが、カジリガメがその嵐を突き破り、まっすぐこちらに迫ってきた。


「くっ……グレイシア、れいとうビーム!」

「グレイアッ!」


 冷気が迸り、カジリガメの足元を凍らせる。

 一瞬動きが止まった隙に、綾杜の声が響く。


「ニンフィア、マジカルシャイン!」

「ニンッ!」


 まばゆい光が工場内を照らし、敵の視界を奪う。



---


 そのときだった。

 工場の最奥から、低く響く電子音――警告音が鳴り響く。


「……今の音、なんだ?」佑真が振り向く。


 暗闇の奥、巨大なカプセルの中に赤い光がうごめいていた。

 目を凝らすと、そこには小柄な赤い竜の姿――ラティアスが拘束されていた。


「まさか……伝説のポケモンを……!」


 直後、抑制装置のランプが赤く点滅し、工場内に嫌な予感が満ちていく。




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