第19話「次なる影」


 訓練場に静寂が戻る。

 佑真は膝に手をつき、肩で息をしていた。グレイシアも荒い呼吸を繰り返している。


「……はぁ、はぁ……終わった……のか……」


「グレイ……」


 その肩に、軽く手が置かれた。振り向くと、綾杜が優しく笑んでいた。

 ニンフィアが彼の足元で尻尾を揺らし、サーナイトが静かに目を閉じる。


「よく頑張ったね、佑真くん。あれだけの動きができれば、十分実戦でも通用する」


「でも……途中でギアが揺らいで……もし綾杜たちがいなかったら……」


「それでいいんだよ」

 綾杜は首を横に振る。


「エンゲージギアは、心の揺れが力になるし、同時に弱点にもなる。だから仲間がいる」


 その言葉に、胸の奥がじんわりと温かくなる。



---


「話は終わったか?」


 神城が足音もなく近づいてくる。険しい表情のまま、淡々と告げた。


「本日の訓練は合格とする。だが忘れるな、今のはあくまで模擬戦だ」


 背後のスクリーンに映し出されたのは、黒いアークエンゲージギアを纏った人影の映像。

 佑真は息を呑む。


「あの路地裏で見た……!」


「そうだ。あれが本物のアーク使いだ。実戦は今日の比じゃない。奴らは迷わず命を奪いに来る」


 場の空気が一気に張り詰める。

 裕太が腕を組み、苦笑交じりに言った。


「はぁ……いきなり命懸けかよ。ワクワクすっけどな」


 総士は小さく息を吐く。


「覚悟はしてる。だけど無茶はするなよ、佑真」


「……ああ」


 グレイシアが「グレイ」と鳴き、彼の横にぴたりと寄り添う。



---


 そのとき、神城が淡々と次の言葉を落とした。


「次回の訓練は……実戦だ。ノクス団の痕跡が郊外で確認された。

 調査班に同行してもらう」


「っ……本当に、現場に……?」


「もちろんだ。お前はもう、オルディナス機関の一員だからな」


 心臓が強く跳ねた。

 恐怖と興奮が入り混じる中、佑真はグレイシアと目を合わせて小さく頷いた。


(これが……俺の新しい日常……いや、戦いの始まりなんだ)




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る