第18話「実戦の洗礼」


 訓練場の照明が赤く染まり、警報音が低く鳴り響く。

 神城の声が響いた。


「これより、模擬アークエンゲージギア使いとの交戦訓練を開始する!」


 対面のゲートが開く。

 現れたのは黒いスーツを着た人型の訓練用ドローン二体。両手には赤黒い武装――アークエンゲージギアを模した剣と銃が輝いていた。


「……これが、あの路地裏で見た……」

 佑真の胸が強く波打つ。


「安心しろ、威力は本物より下げてある。ただし――油断すれば怪我はする」

 神城の声が響く。


 隣で綾杜が静かにハープ型ギア、フェアリーコードを構えた。

 ニンフィアが尾を揺らし、サーナイトが瞳を光らせる。


「佑真くん、僕が支援する。旋律に合わせて、心を落ち着けて」


「わかった……行くぞ、グレイシア!」


「グレイッ!」


 開始のベルが鳴ると、模擬アーク使いが一斉に突撃してきた。

 片方は刀を振りかざし、もう片方は銃型ギアから赤黒い光弾を放つ。


「グレイシア、回避!」


 白銀の体が滑るように飛び、光弾をかわす。佑真も転がるように避けると、頭上を赤い軌跡がかすめた。

 心臓が跳ねる――本当に人間を狙ってくる。


「ニンフィア、スピードスターで援護して!」

「ニンッ!」


 無数の星型の光が飛び、光弾の連射をかき消す。

 その隙に、サーナイトが静かに手をかざした。


「サイコキネシス……っ!」


 模擬体の動きが一瞬止まる。


「今だ、佑真くん!」


「グレイシア、れいとうビーム!」

「グレイアアッ!」


 氷の光線が走り、模擬体の片足を凍らせる。

 しかし、もう一体が刀を振りかざして突撃してきた。


「くっ……!」


 恐怖と焦りで、右腕に力が入る。

 氷の粒子が集まり、短剣が形を取った。初めて触れた冷たい重みが、胸に勇気を灯す。


「うおおっ……!」


 佑真は短剣で刃を受け止める。衝撃が腕に響くが、踏ん張れた。

 背後ではグレイシアがでんこうせっかで敵の背後を突き、動きを止める。


「よし……綾杜、今だ!」


「旋律を重ねるよ――幻奏シェイド・アリア!」


 フェアリーコードの音色が響き、淡い光がフィールドを包む。

 模擬体の動きが鈍り、赤黒い武装が一瞬だけ揺らいだ。


「グレイシア、ふぶきッ!」


「グレイアアアッ!」


 吹雪が渦を巻き、凍気と光が訓練場を支配する。

 ニンフィアのマジカルシャインとサーナイトのサイコキネシスが追撃し、二体の模擬アーク使いはついに膝をついた。


 静まり返る訓練場に、神城の声が響く。


「……合格だ。お前たちは、実戦に足を踏み入れる覚悟を見せた」


 佑真は荒い息を整え、グレイシアの首元を撫でた。

「……グレイシア、ありがとう」


「グレイ……」


 冷たい毛並みが、命懸けの現実を静かに教えてくれるようだった。



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