第15話「白銀の契約」


 模擬戦が終わった翌日、佑真は神城に連れられてオルディナス機関の最上層へ向かった。

 天井の高いホール。荘厳な光の中で、白いドレスを纏った女性が静かに立っていた。


「……カルネさん……!」


 カロスチャンピオン、カルネ。ポケモンバトルの頂点に立つ存在であり、この機関の設立者でもある。


「初めまして、髙野佑真くん。昨日の試験、拝見しましたよ」

 カルネの声は穏やかでありながら、芯の強さを秘めていた。


「君は……とても澄んだ心でポケモンと向き合っている。オルディナス機関は、そういう者を必要としています」


 横でグレイシアが小さく「グレイ」と鳴いた。


「カルネさん……この機関の目的って、いったい……」


「ええ、話しましょう」


 カルネはゆっくりと歩き出す。壁には、かつてのポケモンバトルの映像が投影されていた。

 その中に、佑真が以前、路地裏で目撃した異様な戦いがあった。


「あれは……!」


「そう、あなたが見たのは――アークエンゲージギア」


 カルネの表情が僅かに曇る。


「本来のエンゲージギアは、トレーナーとポケモンが心を重ねて初めて発現します。しかし……」


 映像の中、黒い鎧のようなエネルギーを纏った男が、暴れるポケモンを無理やり操っていた。


「アークエンゲージギアは、絆を無視して強制的に力を引き出す技術。ノクス団が開発し、ポケモンを傷つける最悪の兵装です」


「そんな……!」


 胸の奥に、あの時の恐怖と怒りが蘇る。

 あのポケモンたちは、痛みに耐えながら戦わされていたのだ。


「そして我々オルディナス機関は、その暴走を止めるために存在する」


 カルネは佑真の目を真っ直ぐ見つめた。


「君が昨日発現させたエンゲージギアは、まさに我々が求める光です。心を通わせた本物の力……」


 佑真は拳を握る。

 グレイシアがそっと隣に寄り添い、その冷たい毛並みが熱を沈めてくれた。


「……俺、やります。あんな戦いをもう、放っておけない」


 カルネは小さく微笑んだ。


「その決意、しかと受け取りました。――ようこそ、正式にオルディナス機関へ」


 その瞬間、佑真は本当に自分が“この世界の戦い”に足を踏み入れたことを実感した。




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