第9話:悔しさと成長の兆し
バトルが終わり、フィールドの片隅でグレイシアに傷薬を吹きかけていると、先生の声が飛んできた。
「髙野、お前はこっちに来い」
「……はい」
グレイシアの頭を軽く撫で、ボールへ戻すと、佑真は観戦席から少し離れた教官用のベンチへと向かった。そこには厳しい表情を浮かべた男性教師──バトル技術担当の神代が、腕を組んで待っていた。
「お前、あのバトルで何を学んだ?」
問いかけは一言。だが、その奥にあるものは明確だった。ごまかしや言い訳は通用しない。
「……特攻で押し切ろうとして、無理をしました。ニンフィアの特防が高いのに、それを無視して……」
「それも一つだが、もっと根本的な問題があるだろう」
神代の目が鋭くなる。佑真は息をのんだ。
「お前は技の選択を誤ったわけじゃない。読みと判断が浅いんだ」
「読み、ですか……」
「グレイシアはれいとうビームとふぶきを持ってる。特攻は確かに強みだが、それを使いこなすにはタイミングと誘導が必要だ。お前は“最初から最後まで正面突破”しか考えていなかった。特性や動きで相手の行動を制限する、そういう策を何も打っていない」
佑真は拳を握った。頭ではわかっていたはずなのに、戦いの中でそれを活かせなかった。
「それに……お前の指示、“回避しろ”ばかりだったな」
「……!」
「グレイシアはお前の声に応えて動いていたが、それじゃまるで回避に頼りすぎてる。ポケモンだって疲れる。もっと状況に応じた戦術を考えろ」
「……はい」
悔しさが胸に込み上げた。グレイシアは頑張ってくれた。それなのに、自分の指示が未熟だったから──。
「でもな、悪くはなかったぞ」
「えっ?」
意外な言葉に顔を上げると、神代は少しだけ口元を緩めた。
「負けはしたが、あのムーンフォースを受けて立ち上がったグレイシア。それに、ふぶきの使い方はかなりの迫力があった。あのまま圧し切れていれば、流れは変わっていたかもしれん。お前とグレイシアの絆が本物でなければ、あそこまで踏ん張れなかった」
「……ありがとうございます」
神代は立ち上がると、背を向けて歩き出した。
「この負けは、お前にとって価値のある敗北だ。今はそれでいい。だが──次も同じ負け方をしたら、その時は厳しく叱るからな」
「……わかってます!」
教官の背中に力強く返事をすると、佑真はゆっくりと拳を握り直した。
(次は……絶対に勝つ)
拳の中に、冷たいけれど温かい、グレイシアの信頼を感じた気がした。
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