第8話:対峙、フェアリーのきらめき


新しくグレイシアに進化してからというもの、佑真は心が浮き立っていた。雪山での再会──幼き日に命を救ってくれたキュレムのことを思い出しながら、あの蒼白の冷気とともに進化したグレイシア。凛とした姿に変わった相棒を見て、誇らしさと嬉しさが混ざり合う感情が胸に満ちていた。


「グレイシア…ほんと、綺麗になったな」


「グレイ!」


グレイシアは嬉しそうに鳴き、しっぽを揺らす。その氷のような瞳には、昔と変わらぬ信頼の色があった。


――そんな思い出に浸っていた佑真は、教室の前方で誰かが名前を呼ぶ声にようやく気がついた。


「髙野佑真!」


「えっ、あっ、はい!」


先生の声に飛び起きたように姿勢を正すと、周囲の生徒たちがクスクスと笑っていた。どうやら、今日の実技授業の対戦相手が発表されていたらしい。


「お前の対戦相手は新川綾杜だ」


隣の席にいた綾杜が、無言で佑真にウインクを飛ばした。


「よろしく頼むよ、佑真くん。フェアリーの優雅さ、見せてあげる」


「……まじかよ」


相手は新川綾杜。ニンフィアとサーナイトを自在に操る、フェアリータイプの達人だ。なかでもニンフィアは特防がずば抜けて高く、特攻が売りのグレイシアには相性が最悪だ。


それでも、やるしかない。


バトルフィールドに立つと、観戦するクラスメイトたちの視線が集まった。先生が合図をすると、綾杜が優雅にモンスターボールを構えた。


「行こう、ニンフィア!」


「ニンフィアァ〜!」


可憐なリボンを翻しながら現れたのは、白とピンクの美しい体色を持つニンフィア。目は油断なく佑真とグレイシアを見つめていた。


「行こう、グレイシア!」


「グレイッ!」


氷の結晶を散らして現れたグレイシア。その登場に歓声が上がる。


「バトル、スタート!」


先生の声とともに、綾杜が一歩前へ出る。


「ニンフィア、スピードスター!」


「ニンッ!」


光の星が連なり、一直線にグレイシアへと襲いかかる!


「回避しろ、グレイシア!」


「グレイ!」


素早く後ろへ飛び退くが、完全には避けきれず、星の一部がグレイシアの背を掠めた。


「今だ、でんこうせっか!」


「グレイ!」


一気に距離を詰め、身体を銀色に輝かせて突撃!


「ニンフィア、マジカルシャインで迎え撃って!」


「フィアァッ!」


キラリと光が爆ぜ、グレイシアの正面から放たれる眩い光。だが、グレイシアは寸前で身をひねり、脇腹にわずかな傷を受けながらも強引に体当たりを成功させた。


「よしっ!」


だが、ニンフィアは軽く後退しただけで大きなダメージは見られない。


「ムーンフォース、放ちなさい」


「ニンフィアァァァッ!」


頭上に月のような光球が浮かび、それがグレイシア目掛けて落下してきた。


「れいとうビームで迎撃しろ!」


「グレイィィ!」


鋭い冷気が放たれ、月の光球と激突する。一瞬の静寂。だが、光はビームを突き抜け、グレイシアの体に直撃した。


「グレイシアッ!」


「……グレ、イ……」


地に伏せるグレイシア。だが、すぐに前脚を踏ん張って立ち上がった。


「まだ行けるよな。ふぶき、全開でいけ!」


「グレイイイイイ!」


広範囲に冷気を撒き散らすふぶきがフィールドを包み、観客たちが息をのむ。しかし──


「サイコキネシスで、押し返して」


「フィアッ!」


目に見えない力が吹雪の中に潜み、氷の渦が逆流するようにグレイシアに押し戻される。


「くっ……!」


グレイシアの体がぐらりと揺れ、崩れ落ちる。


「グレイシア、戦闘不能!」


先生の判定が下された。場内から拍手がわき起こる。


佑真はそっとグレイシアに歩み寄り、抱きとめた。


「よく頑張ったよ、グレイシア」


「グ、レイ……」


その瞳に、悔しさと誇りが同居していた。


綾杜が歩み寄ってきた。


「いいバトルだったよ。君とグレイシア、すごく息が合ってた」


佑真は軽く笑いながら、グレイシアを撫でた。


「次は、絶対に勝つ」



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