5話 「迎えに行くために」
「魔法って、何処でも使えるわけじゃないんだね」
放課後、夕方の公園にてよくわからない文字が所狭しと円の中に書かれている、まるでミステリーサークルのような物の上に、誠は立っていた。
「いえ、できますよ。ただ、この公園の中だけ何故か魔力が充満していたので、異世界移動のための魔力を全てここの魔力で補えそうなのでここで行おうかと思って」
授業でよく見る白チョークを手に、アイリは誠に説明をしながら地面に白チョークを擦らせて解読不能な文字を書いていく。解読不能とはいうけれど、実際には誠も見た事のある数学で使われるような文字が書かれているので読もうとすれば読める。だが文字が小さいのと、続け文字で書かれているため普通に読めないだけである。
「ソニードさん、昼に学校抜け出してこれをずっと書いてたの?」
「はい。本当なら構築式が書かれた本を見ながら書くのでそんなに時間は掛からないんですけど、今は手元に黒魔術の本がないので、新しく構築式を計算し直してたらちょっと遅くなっちゃいました」
ケロリとしてアイリは答えているが、おそらくそれはとんでもなく途方もない作業だったのだろうと、魔術のことをよく知らない誠でもわかった。一度書いたことがあるとはいえ、もう一度式を計算し直して書いていくのは、どれほど大変なものだったのだろうか。
誠はアイリの方に向き直り、深く頭を下げた。
「えっ!? どっ、どうしたんですか? 顔を上げてください!」
「ごめん。俺、魔術のことよくわからないけど、ソニードさんがすごく大変なことをしてるっていうのはわかるよ。だから、ごめん。ありがとう」
それは罪悪感からくるもので、アイリの姿を見て思わず言ってしまった言葉だった。本来誠はアイリに謝罪をするつもりはなかったのだ。それはこの状況を生み出したのがアイリだから、というのもあるが、自ら手伝うと言ったアイリに謝罪するのはアイリに失礼なのではと考えていたからだった。
顔を上げてと言っても一向に顔を上げないでいる誠に、アイリは苦笑するしかなかった。
「いいんです、謝らないでください。私が招いた状況なのでむしろ私がここまでやるのは当然のことなんです。だから、神代くんは何も気にしないでください。むしろ神代くんに謝られたら私は琴宮さんと神代くんに土下座して二人から殴られるまでしないといけないので」
アイリとしては、誠には謝られたくはなかった。消し去った感情が帰って来てしまうような気がしたから。会ったことのない琴宮愛莉を羨ましいと、ズルいと思ってしまったのも、そんな存在になりたいと思ってしまったのも、全部、神代誠という存在が琴宮愛莉を覚えていたあの瞬間に捨てたはずだったのに。なのに、これではアイリは一生あの醜いどす黒い感情を捨てられそうにない。
「いや、それは違うと思うけど……」
「それだけのことを私がしたってことなんです。だからほら、神代くん顔を上げて。今から、琴宮さんを〝迎えに〟行くんですから!」
アイリが黒い感情を振り払い、両手をばっと拡げる。すると、白チョークで書かれた解読不能な文字の書かれた円が、金色に輝き始めた。宙には金色の粒が舞い、それと一緒に金色の蝶までもが踊っている。それを綺麗だと思った瞬間、誠の視界は真っ白に埋め尽くされ、誠はその眩しさに思わず目を瞑ったのだった。
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