願いの力、運命の選択

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第1話 魂の目覚め、そして問いかけ

高校の教室。日差しが差し込む窓際で、火野 ひの わたる(高校1年生)は静かに教科書をめくっていた。周囲の喧騒が耳に入ることなく、彼はただ目の前のページに視線を落とし続けていた。心はどこか遠く、現実から少しだけ逃げていた。自分の周囲にある世界が、どこか空虚に感じていた。


ふと、教室の後ろで声が響く。


「おい、渉。今、聞いていたか?」


振り返ると、そこには霧島桜きりしま さくらが立っていた。桜は渉の幼馴染であり、同じ高校に通うクラスメート。だが、桜はただのクラスメートではない。彼女もまた、ある「力」を持っているからだ。


「……え、うん。今、なんて?」渉は困ったように言いながら、無意識に答える。


桜は苦笑し、彼を軽く小突いた。「まったく、またぼーっとして……。今日は先生が何か面白い話をするって言ってたんだよ。聞いておいた方がいいよ?」


その言葉に渉は眉をひそめる。「先生って、あの……」


桜はうなずく。「うん、篠崎先生。ちょっと変わってるけど、いろんなことを教えてくれる。今日は、ちょっと興味深いことを話すって。」


その言葉を聞いて、渉は少し身を乗り出した。篠崎先生は、確かに学校内でも一風変わった存在だった。普通の教師とは違う、独特の視点と哲学を持っている。何より、能力について語ることが多かった。


渉が再び教科書に目を落としていると、突然、後ろの扉が開き、篠崎先生が教室に入ってきた。


「おはよう、みんな。今日はちょっと、みんなが普段考えないような話をしようと思う。」篠崎先生は、ニコリと笑って言った。その微笑みはどこか不気味であり、同時に魅力的でもあった。


渉は少し身構える。桜も顔を見合わせ、興味津々な表情で先生の話に耳を傾ける。


「さて、君たちに質問だ。もしも、何でも願いが一つ叶うとしたら、何を望む?」


教室の空気が一瞬、凍りついた。


「金か?地位か?それとも、権力か?」篠崎先生は問いかける。「もちろん、現実の中では、そんなものを望んでいる者が多いだろう。しかし、戦争中の子供が望むのは、パン一つ。**環境によって考え方は変わってしまうんだ。君たちの望みは本当に自分のものか?それとも、与えられたものでしかないのか?」と続ける。


その言葉が、渉の心に深く刻まれた。彼は無意識に、桜と目を合わせた。桜は少し驚いた表情で先生を見つめていた。


渉はその問いを胸に秘めたまま、言葉を呑み込む。その言葉が、どこか深く響いていた。


篠崎先生は、静かに教室の前に立ち、続けた。「君たちが望むものは、果たして本当に『欲しいもの』なのか。それとも、誰かが作り上げた『望まされるもの』なのか。誰もが一度は、自分の本当の望みを見つけるべきだろう。それが、本当の力を得るための第一歩だ。」


その言葉に、渉の心は揺れ動いた。しかし、まだその答えは見つからない。


放課後、教室が静かになると、桜が渉に声をかけた。


「ねぇ、渉。さっきの先生の話、どう思った?」


渉は黙って考え込み、ゆっくりと答える。「うーん、なんか……あの言葉、すごく響いたんだ。でも、本当に何を望んでるのかって、わかんないな。」


桜は少し考え込み、やがて答える。「私も、最初はそうだった。だけど、力を持ってしまった今、もっと考えなくちゃいけないと思う。自分の力をどう使うべきか。渉も、いつかその答えを見つける時が来るはずだよ。」


渉は桜の言葉にうなずき、再び空を見上げた。


だが、彼は知らなかった。この力が、やがて彼を未知の世界へと引き込むことになるとは――。

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