第9話 君の背中に揺れる風
教室の窓から差し込む午後の日差しは、まだ少しだけ冷たさを残していた。
紗和(さわ)は机に伏せた手のひらに頬を寄せながら、静かに息をついた。
いつものように真面目な顔で授業を聞こうとしているけど、隣の祐斗(ゆうと)の声が頭の中で何度もリピートされる。
「……紗和、聞いてる?」
思わず顔を上げると、祐斗がほんの少し眉をひそめてこちらを見ていた。
「ご、ごめん……ちょっと考えごとしてて」
祐斗はふっと肩をすくめて笑う。
「またかよ。授業中に何考えてんだ?」
紗和は小さく笑いながら目をそらす。
「だって、祐斗が話しかけてくると、つい気になっちゃうんだもん」
祐斗は真っ赤な顔で視線を逸らし、照れ隠しに髪をかき上げた。
⸻
放課後、二人は校庭のベンチに並んで座っていた。
「前から言いたかったんだけど、紗和はいつも頑張りすぎるよな」
祐斗がぽつりと言った。
「そんなことないよ……」
紗和は少し俯いて、口ごもった。
「俺はな、紗和が困ってると、つい放っておけなくなる。だから余計に、ちゃんと気持ち伝えたくて」
祐斗の真っ直ぐな言葉に、紗和の胸が熱くなる。
「私もね……ずっと祐斗のこと、気になってた」
彼の笑顔を思い浮かべて、そっと言葉を紡ぐ。
「でも、言葉にするのが怖くて……逃げてたんだ」
祐斗はその手を包むように優しく握った。
「怖くても、伝えることが大事だって、俺は信じてる」
紗和の瞳に小さな涙が浮かんだ。
「ありがとう……祐斗」
二人の距離が、確かに縮まった瞬間だった。
夕陽が校庭を黄金色に染める中、風がそっと二人の間を通り抜けていった。
紗和は祐斗の手の温もりを感じながら、胸の奥がふわりと軽くなるのを感じていた。
「ねえ、祐斗」
小さな声で呼びかける。
「うん?」
彼が少し顔を近づけてくる。
「これからも、私の隣にいてくれる?」
不安そうに問いかけると、祐斗は真剣な瞳で答えた。
「もちろんだよ。ずっと一緒に歩いていこう」
紗和は笑顔を返し、そっと祐斗の手を握り返した。
そのとき、校庭の時計が午後五時を告げた。
帰り道、二人の影は夕暮れの街並みに溶けていき、重なり合った未来をそっと感じさせた。
【短編集】キミ色恋模様 ミナ @mitsu0914nn
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