第3話 それでも君が笑うから

夕焼けの色が校庭を染めていく。風が少し冷たくなって、季節の変わり目を感じた。

未来はいつも通り教室から出てきて、ぼんやりと遠くの空を見ているようだった。


「未来、大丈夫?」

俺は少し離れたところから声をかけた。


「うん、大丈夫」

けれど、その声には力がなかった。



同じクラスになってからというもの、未来は笑顔が眩しくて、誰からも好かれていた。

でも最近はどこか元気がなくて、休み時間も一人でいることが多くなっていた。


「何かあったら、話していいんだよ」

何度もそう言おうと思ったけど、彼女のプライドの高さを知っているから踏み込めずにいた。



ある日、放課後の教室で未来が机に伏せているのを見つけた。

心配になって声をかける。


「未来、どうしたんだ?」


彼女は顔を上げて、涙をこらえるように笑った。


「別に…なんでもないよ」


でも、その目は明らかに悲しそうだった。



その日から、俺は未来の笑顔の裏に隠れた本当の気持ちを知りたいと思った。

休み時間や放課後に、少しずつ話す機会を作っていった。


「最近どうしてる?」

「……ちょっとね、色々考えちゃって」


そんなささいなやりとりの中で、未来は少しずつ心を開いていった。



ある日、彼女はぽつりと言った。


「ねぇ、もし私がいなくなったら、どうする?」


急な質問に戸惑いながらも、俺は真剣な顔で答えた。


「そんなの、絶対に嫌だ」


未来は少し笑ったけど、その笑顔はどこか寂しそうだった。



それからも彼女は悩みを抱えながらも、笑顔を見せてくれた。

俺は彼女を守りたいと思った。


ある放課後、未来が小さな声で言った。


「迷惑かけて、ごめんね」


俺は手を差し伸べて、強く握った。


「迷惑なんて、思わないよ。ずっと一緒にいるから」


その言葉に、未来の瞳が潤んだ。

そのまま少しの間、二人の間に静かな時間が流れる。


「ありがとう、ずっとそばにいてくれて…」

未来の声は震えていたけど、心からの感謝が伝わってきた。



それからの日々は、少しずつ変わっていった。

未来は笑顔を取り戻し、俺と過ごす時間を楽しんでいるようだった。


放課後に一緒に帰ったり、好きな音楽を教え合ったり。

小さなことで笑い合えることが、こんなに幸せだとは思わなかった。



ある晴れた日の帰り道。

俺たちは手をつないで歩いていた。


「ねぇ、もっと前から好きだったんだよ」

未来がぽつりと言う。


「え?」


「私、あなたの優しさに気づいてた。ずっと、ずっと」


俺は驚きながらも、嬉しさが込み上げてきた。


「俺も、未来のことがずっと好きだった。これからもずっと一緒にいたい」


未来は笑顔で頷き、ぎゅっと手を握り返した。



夕日に照らされながら、二人の影がひとつに重なった。

未来はもう孤独じゃない。

俺がいる。

これからもずっと。

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