第2話 好きになっちゃ、ダメですか?

教室の片隅で、私はノートに集中していた。

放課後の静けさの中、鉛筆の音だけが響く。


「陽菜さん、英語わからないところある?」


そう声をかけてくれたのは、英語教師の悠真先生。

長身で優しい笑顔の彼は、教えるときもとても丁寧で、自然と目が離せなくなる。


最初はただの「先生と生徒」。

けれど、何度も質問に行くうちに、彼の近くにいることが嬉しくなっていった。



ある日、数学のテストがひどくて落ち込んでいた私に、彼は放課後声をかけてくれた。


「よかったら、一緒に勉強しようか?」


その言葉に、胸がドキドキして、私は頷いた。


それから毎週決まった曜日、教室の隅で彼と勉強する時間ができた。

笑いながら教えてくれる彼の横顔を見ていると、ただの憧れ以上の気持ちが膨らんでいった。



ある放課後。

私は勇気を出して、小さな紙に想いを書いた。


「先生が好きです。もしよかったら、読んでください。」


教室で彼を待った。

でも、彼が来る前に急に怖くなって、紙を握りつぶしてしまった。


「やっぱり無理……」


そんな弱い自分に涙がこぼれそうになった。



それから数日後、廊下で先生と偶然ぶつかってしまった。


「ごめん、大丈夫?」


彼の声に胸が震えた。

彼は私の手を優しく握り、心配そうに見つめた。


その時、私は彼に「好き」だと伝えたい気持ちと、伝えられない現実のはざまで揺れていた。



放課後、先生に直接伝えるチャンスを待った。


でも、教室のドアの前で何度も立ち止まり、結局言えずに帰ってしまう日が続いた。


「もし断られたら……?」


そんな不安が胸を締め付けていた。



ある日、とうとう決心して手紙を書いた。


「先生、好きです。どうか読んでほしい。」


手紙をカバンにしまい、放課後の教室で彼を待った。


でも、心臓がバクバクして、手紙を出せずにいた。


彼が入ってきて、私の顔を見る。


「陽菜、どうしたの?」


何も言えず、ただ目を伏せるだけ。


「いつでも話していいんだよ。」


そう言われて、私は泣きそうになった。



ついに、先生に告げる時が来た。


「先生、私……好きです。」


震える声で伝えた。


彼は静かに話し始めた。


「陽菜、ありがとう。君の気持ちはすごく嬉しい。でも、俺は君の先生だ。恋愛対象にはなれない。君の未来を応援したい。」


胸が痛かった。


涙をこらえて、私は笑った。


「わかりました。ありがとう。」



卒業の日。


彼は手紙を渡した。


『君の未来が輝きますように。』


涙が溢れた。


私はこの恋を大切に胸にしまい、新しい一歩を踏み出した。

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