ー2章ー 21話 「誤解と土煙と、三つの村をつなぐ道」
トリア村の朝は、いつものように平和だった。
だがその静寂を破る叫び声が、村中に響き渡る。
【村人A】「おーーーい!!! 大変だーーー!!!」
【村人B】「魔物の群れがこっちに向かって来るぞーー!!」
土煙をあげて迫ってくる黒い影。
その光景に、村人たちは悲鳴を上げながら逃げ惑う。
【じいさん】「な、なんということじゃ……! 魔物の群れ……まさか、我らを狙って……!?」
慌ててその場に駆けつけたじいさんは、あまりの緊迫感に顔面蒼白。
思わず杖を握る手も震える。
【じいさん】「クラウガ殿、リュナ殿! 緊急出動じゃ! 村の存亡がかかっておる!!」
呼び出されたクラウガとリュナは、鋭い目を光らせて即座に対応。
【クラウガ】「了解した。我らがリュウジ様の村、誰にも手出しはさせない──!」
【リュナ】「我らが居ると知っての狼藉か?喉元を噛み切ってくれようぞ!」
村の外れから出撃するウルフの部隊。
魔物の接近に、緊張感は最高潮に達していた。
【じいさん】「あぁ………リュウジよ……わしはお前さんの村を守ってやれなんだ……いくらウルフが居っても、さすがにあの数じゃ。止められはすまい。すまんのう………もはやこれまで…万事休すじゃ……!」
天を見上げ、村を守れなかった自責の念に駆られたじいさん。
その背中を見つめる村人たちは全員、死という覚悟を決めていた………。
一方その頃、土煙の中心では……
【タケト】「お、おーい!! 待てーーっ!!!」
タケトが全力で走っていた。
汗だくで息を切らしながら、前方の魔物の群れに向かって叫ぶ。
【タケト】「お前ら! ちょっとは周り見ろって! 村が誤解してるぞ!!」
そう、魔物たちは……道を作っていた。
大きな岩を砕いて均し、木材を運び、整地を進める魔物の群れ。
その姿はどう見ても“舗装部隊”だった。
追いついたタケトが、ようやくクラウガたちの前に出る。
今にも飛びかかって来そうな気迫……まさに一触即発状態!
既のところでタケトが姿を現した事で、クラウガたちは臨戦態勢を解き、よく分からないこの事態に首を傾げた。
【タケト】「ご、ごめん!クラウガ。誤解なんだ!コイツらはリュウジの指示でトリア村までの道を作っている舗装部隊なんだ!俺が温泉に入ってる間にこんな所まで………」
クラウガとリュナは、殺気立った表情から一転、沈黙。
しばし無言でタケトを見つめ──
【クラウガ】「……アホくさっ!」
踵を返してそのまま村に戻るクラウガ。
【リュナ】「心臓に悪いわ……タケト!リュウジ様の顔に泥を塗らぬよう、しっかり指示、監督せよ!」
【タケト】「ごめんなさい………」
その後ろを、ウルフ部隊が無言でぞろぞろと引き上げていく。
タケトは苦笑いしながら、それを見送る。
【タケト】「……ま、無事だったってことで」
その足でトリア村へと駆け戻った。
全速力で走り抜け、村の広場へ。
【じいさん】「タケト!? 無事じゃったか!? 魔物の群れはどうなった!? ……まさか、お主が生きておったとは……」
【タケト】「落ち着いて!ごめんなさい! 誤解なんです!リュウジの案でトリア村まで道を作ってただけなんですよ!俺が目を離した隙に、どんどん進んじゃって……何も知らずにあの数で迫られたら、そりゃそうなりますよね………本当にごめんなさい!」
【じいさん】「……へ?」
しばしの、沈黙。
村中がぽかんとした表情でタケトを見る。
そして……
【村人A】「………やってられん!おい!ユイナ、シュワットだ!酒でも飲まなきゃ胸のモヤモヤが収まらん!」
【村人B】「全くだ!なんて人騒がせなんだ!おいタケト!変わりにイモの収穫しておけよ!」
【村人C】「………………。」
【タケト】「いや、何か言ってくれよ!」
散々怒られたタケトは、言われるがままイモの収穫を始めるのであった……。
数時間後。
道は見事に整備され、ホノエ村・ミズハ村・トリア村の三つの村が、一本の道でつながった。
【タケト】「何はともあれ、無事完成だな!お前ら、よくやってくれた!」
【ゴブリン】「当然の事です!少しでもお役に立てたなら本望です!」
穏やかな陽射しのもと、完成した道を眺めながら微笑むタケト。
勘違いから始まった大騒動は、三つの村を結ぶ“未来への道”を生み出したのだった。
不遇だったアラサーの俺が異世界転生させられたら 榊日 ミチル @Sakakibi_huguten
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