ー2章ー 20話 のどか過ぎる異世界と、迫り来る土煙
数日後──ホノエ村。
ようやく整地が終わった畑に、村人たちは嬉々として鍬を振るい始めていた。
新しい命を育てる準備が整い、次は何を植えるかという話題で、あちこちがにぎやかになる。
【ナツキ】(作物を育てる時期を気にしなくて良いなんて……さすがは異世界って感じね。困窮しているこの世界では大助かりだけど)
現代では考えられないが、森で自生していた作物から察するに、季節はあまり関係ないらしい。
それならばと、ナツキは村人たちに育ててみたい作物を聞いてみることにした。
【ナツキ】「皆さんはこの中で何を育ててみたいですか?初めてなので、興味本位で大丈夫ですよ」
【村人A】「オレ、甘いの好きだから……サトウキビとかどうかな?」
【村人B】「トウモロコシとか、焼いたらうまそうじゃない?」
【村人C】「メロンがいい! 甘いやつ!」
他にも、小豆やカボチャなどが次々に挙がっていく。
【ナツキ】「欲望に忠実すぎるラインナップ……!でも、そこから畑を好きになってくれたら嬉しい!」
と笑いながら、それぞれの種を配り、植え方と水やりの方法を丁寧にレクチャーした。
そんな最中──
【リュウジ】「おーい、ナツキー!」
畑の方へ走ってくるリュウジの姿があった。
なぜか妙にテンションが高い。
【ナツキ】「どうしたの? なんか嬉しそうだけど」
【リュウジ】「なぁ、聞いてくれよ! スライムに米の苗を食わせてみたらな、ミズハ村の米作りもぬちゃぬちゃでいけるかもしれないんだ!」
何を言っているのか、全く分からないナツキはポカンとしながらも、「スライムに米の苗を……?」と困惑した表情を浮かべる。
【ナツキ】「あの、ごめん。まず“ミズハ村”って何? 話が急すぎて追いつけないんだけど……」
【リュウジ】「ああ、そっか、ごめん。説明してなかったな! 水害にあった村があってさ。畑が完全に水没してて、普通ならダメなんだろうけど……あれ、もしかして田んぼに使えるんじゃないかって思ってさ!」
【ナツキ】「え、田んぼ? 水浸しの畑でお米作ろうって話? なるほどね……それ、状態にもよるけど、いけるよ?」
ナツキはあっさりと答えた。
【ナツキ】「私、実家が米農家でそういうの親から聞かされたことある。条件が揃ってれば田んぼにはできると思う。もし村の人たちが困っているなら、やってみる価値はありそうじゃない?」
【リュウジ】「マジか! 俺たち、農業経験ゼロだから正直あの水見て田んぼっぽい?って思っただけだったんだよな……!」
【ナツキ】「水が綺麗で、ある程度深さが保てるなら問題ないと思うよ? あとは苗の状態と、土の質だけど……それも、あのスライムでなんとかできるんでしょ?」
【リュウジ】「ああ、それは問題ない!しかし心強いな……! じゃぁ、タケトが戻ってきたら、ナツキも一緒にミズハ村に来てくれ! ちょっと現場を見てくれないか?」
【ナツキ】「もちろん。お米作り、任せてよ!っと、その前にこっちのみんなに野菜の育て方を教えるのが先ね?」
リュウジは感激しきりだった。
これでミズハ村の復興が、また一歩前進できる……!
──その頃、ミズハ村近くの温泉付近。
【タケト】「お前ら、疲れただろ? ここで温泉入って休んでいけよ」
連日作業を続けてきたため、さすがのタケトも疲れの色を隠せなくなってきた。
ゴブリンやロックゴーレムたちは作業を進めていたが、タケトの気遣いに対し、首を振る。
【ゴブリンA】「いえ! 我々は大丈夫です、タケト様!」
【ロックゴーレム】「タケトこそ、湯に浸かり、疲れを癒す」
【タケト】「そうか…悪い、ならそうさせてもらう。少し離れるから、お前たちも休みながらで良いからな!」
【ゴブリンB】「分かりました!お早いお戻りをお待ちしております!」
結局、タケト一人が温泉に向かう事となった。
【タケト】「……はぁ〜、しみる……疲れてたんだな、やっぱ。しかしアイツら、ちゃんと反省してるみたいだし、何より真面目に働くよな………ふあぁぁぁ………」
ゆったりとした湯に身を沈めると、次第にまぶたが重くなり、心地よい眠気に包まれていった。
──そして、同時刻…………トリア村。
【村人A】「おーーーーい!! 大変だーーー!!」
遠くの地平線に土煙が立ち上る。
その中心に、無数の影。
【村人B】「ま、魔物!? 魔物の群れがこっちに向かってきてるぞー!!」
村中に緊張が走った。
――リュウジ不在のトリア村に、未曾有の危機が迫っていた。
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