第5話:『旅に出たい』という衝動の芽生え
自分の中にあった『アフリカ』と、目の前の現実とのズレ。
現実が思い描いてきた像とどれだけ違うのか。あるいは、どこかに「これは本物だ」と思える風景がまだ残っているのか。
アフリカにいながらアフリカを探すという矛盾を抱えて、それでも僕は、地図の向こうにある何かを見てみたくなった。
理由はうまく言えない。ただ、どうしようもなく行ってみたいと思った。
あの先に何があるのか、自分の目で確かめたかった。
いてもたってもいられない。そんな気分だった。
――旅に出たい。
その感覚は、頭で考えるよりも先に、胸の奥でじわじわと膨らんでいった。身体の中で何かが疼きはじめたようだった。
そして気づいたら、どうやって旅に出ようか、どんな手段があるかを考えていた。
バックパックを背負って旅する選択肢もある。ローカルバスやヒッチハイク、徒歩での移動、旅人らしい自由なスタイルだ。でも正直、それはあまりピンとこなかった。
いろんな荷物を背負って歩き回ることよりも、自分で地図を開いて、自分でハンドルを握って走る。そのイメージのほうに、心がざわついた。
風を切って、道なき道を突っ走る自分が、頭の中にくっきり浮かんできた。想像しただけで、にやけてしまう。
うまくいくかどうかなんて、関係なかった。ただ、面白そうだった。
そうだ、車があれば、どこにでも行ける気がする。
舗装されていない道だって、砂漠だって、山道だって、ぜんぶ自分の足で越えていける。
観光地を効率よく回る旅じゃなくて、時には迷ってもいい、非効率に不確かな道を、いや道なき道を走ってみたかった。
そこに何があるかも知らないまま、風と気分のおもむくままに道を選んでみたかった。
それに、車なら重い荷物を背負わなくてすむ。肩がちぎれそうになるようなバックパックとは無縁の旅だ。
すべて荷台に放り込んで、僕はただアクセルを踏み込むだけ。
重さを気にせずテントを積み、水と食料を積み込めば、寝食を自己完結できる。
「これだ」と思った。それは、自己完結できる自由だった。
ホテルやレストランの有無なんか気にせず、環境に縛られない自由さで大地を移動する。人が決めたルートではなく、自分が決めたルートで。
車こそ、僕の中にあった『アフリカ』を旅するのにもっとふさわしい手段に思えた。
想像すればするほど、息が弾んできた。頭の中では、もう旅が始まっていた。
でも――その前に、ひとつ大きな問題があった。
僕は、南アフリカで車の運転ができなかった。
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