〖2〗Nem’oubliez pas(私を忘れないで)
次の日・・・
朝食の時間はまとめられている。
これは、家事交代制で、みんな食器を洗う事の大変さを知っているからである。そのため、朝食の時間を合わせ、皿洗いも一気に終わらせちゃおう、という考えだ。
「……ごちそうさまでした」
兄はテーブルを立ち、食器を持ち、台所に行った。今日の食器当番は捌夢だ。
「ごちそーさま」
次々に食べ終わっていくきょうだい達。
今日は誰も、予定がない。捌夢ももちろん暇なため、夏休みの宿題でもしようかと思ってる。
・・✾_✿❀_✾・・
――ジャーーー
透明な水が蛇口から流れる。
捌夢は食器につく泡を流し、終わったらそれをタオルの上に置く。
食器を洗ってる間は、ほとんど無の時間だ。
今のうちに、うちのきょうだい達を紹介しよう。
第一子、長女・桜井
第二子、次女・
第三子、長男・桜井
第四子、三女・桜井
第五子、次男・桜井
第六子、三男・桜井
第七子、四男・桜井
第八子、五男・桜井
「これで全部流し終わったかな、っと……」
洗い終えた食器を見ながら手を洗い、タオルで拭いた。
すると玄関が開く音がし、翔伍が歩いてくる。
「ハチ、ミルク出して」
「? なんで……」
疑問に思いつつも、冷蔵庫から牛乳を出して翔伍に渡す。
すると翔伍は受け取った瞬間に早歩きで歩き出し、捌夢もそれについて行く。
靴を履いて外に出ると、庭で子猫が眠っていた。
猫を取り囲む、きょうだいたちも一緒だ。
珍しい。
きょうだいが朝昼晩のご飯の時以外に全員集まる事なんてめったになかったから、少し驚いた。
きょうだいの中の一人、捌夢と二番目に年の近い兄、陸斗が説明をしてくれた。
「どうやらこの子猫、足を怪我しているみたいなんだ。だから包帯を巻いて、お腹も空いているみたいだったから、とりあえず牛乳に卵黄を入れたものを……って、牛乳だけなの?」
陸斗はこのきょうだいの中で一番いい学校に行っている。
寮生のためめったに帰ってこないが、昨日の夜帰ってきたらしい。
「え? 猫にはミルクだろ」
「何を言ってるんですショウゴ。猫には乳糖(ラクトース)を分解する酵素『ラクターゼ』が少ないため、牛乳を消化しきれず、下痢や嘔吐を引き起こす場合があります! 特に子猫やシニア猫には注意が必要です。彼らの体はより繊細で、消化不良が深刻な問題に発展する恐れがある! 猫にミルクを与える場合は、乳糖を含まない『猫用ミルク』が最適です。この特別なミルクは、猫に必要な栄養を補えるよう作られて――」
「あーもういいもういい。獣医でも目指してんのかお前は」
翔伍の通う白鳳中高もそれなりにいい学校だが、専門知識には疎い。
そこに割って入ったのは、長男の参彦。
「ま、まあまあ。じゃあ、ネコ用ミルクが無い場合はどうすればいいんだ?」
「……それは、牛乳に卵黄を混ぜたものを少量与えることが代替策として提案されています。ただし、その後、動物病院で健康状態を確認するのが望ましいです」
「なるほど! ハチ、卵黄だ!」
命令されて少し気分が悪くなったが、黙って台所に取りに戻った。
・・✾_✿❀_✾・・
「子猫、元気になってよかったね」
「まだ元気になったかどうかはわかりません。動物病院に連れて行かないと」
「リクト、お前には夢がないな」
「ショウゴ、お前には脳が足りない」
翔伍と陸斗は、相変わらず仲が悪い。
・・✾_✿❀_✾・・
数日後、この猫はうちで飼うことになり、庭で猫の名前に関してきょうだい会議をしていた。
既婚者の二那と肆音の旦那たち二人は猫のエサを買いに行った。
「猫の名前、どうしよう」
「うーんやっぱり、犬と同じように花の名前がいいんじゃないかしら?」
「確かに! でも、シチの付けた名前って、花、以外の共通点が見られなくてわかりずらいわね」
「………………」
それぞれが提案の声をあげる中で、陸斗がぽつりとつぶやいた。
「……花言葉」
その一言で場が静まり返る。
次第に、なるほど、と納得する空気に変わったが、陸斗の顔はなぜか青い。
「犬、の、名前……って、なんだっ……け?」
「ど、どうしたリクト。……サクラと、クロユリ、子犬の二匹は、アザミとホオズキ……だけど?」
参彦の言葉を聞いて、陸斗の顔はさらに青くなった。
兄は不思議に思う顔をしつつも、カウンセリングをした人の話をし始めた。
「そういえば、この前会った人がな、花言葉に詳しくって。それで、桜の花言葉を教えてもらったんだ。確か、『精神の美』……だったよな?」
兄は陸斗を元気づけようとして言ったんだと思うが、陸斗は青いまま。
「……そうだ。桜だけならまだいい。でも、他の花言葉は……」
「何か問題なの?」
壱歌が聞くと、陸斗は眉をひそめた。
「……桜の花言葉には、怖い意味もある。『精神の美』『優雅な女性』『純潔』のほかに――」
――私を忘れないで、というものもある。
その言葉を聞いて、皆が眉をひそめた。
一番に声をあげたのは、翔伍だ。
「い、いやいや、偶然かもしれないだろう?」
するとスマホでほかの花言葉を調べていた二那が、声をあげた。
「黒百合の花言葉は、『呪い』や『復讐』。アザミは『報復』。……ホオズキ……は、『笑顔』や『自然美』……? でも、中が空洞なことから『偽り』というのもあるけど……」
「そう。普通にホオズキの花言葉かもしれない、でもイヌホオズキの可能性もある」
「イヌホオズキ? イヌホオズキ……は、『嘘つき』……」
場に流れたのは、重い沈黙。
兄の死と同等の、空気の重みを追体験した。
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