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 綺羅星さんと交流する様になってから一ヶ月が経とうとしてた。流石に弁当を毎日作ってもらうのは悪いので、親から貰ったコンビニ弁当代を全て彼女にあげることにした。まぁ、貰ってもらうまでに、かなりの交渉時間を要したのは言うまでもない。

 彼女はオタクの僕に異常なまでに優し過ぎた。暑いねと言ってジュースを奢ってくれるし、一緒に帰る時に横並びに歩いて帰る際は必ず車道側を歩いてくれる。もうオタクに優しいというか、オタクを守らねばならぬという使命感を持っていると言っても過言では無い。

 どうして彼女がここまで僕に優しくしてくれるのか?それには何か理由がありそうである。そんな折、こんなことが起こった。

 あれは学校から一緒に帰る時のことである。とあるカップルとすれ違った。そのカップルは人前だというのにも関わらず激しくスキンシップをしており、僕は目を泳がせながらも、その光景をチラチラと見ていた。

 それを綺羅星さんは見ていたらしく、そのカップルが居なくなった後、僕にこんなことを言ってきたのである。


「ねぇ、勝ッチは彼女居るの?」


「へっ?」


 質問されている意味が分からなかった。こんなオタクに彼女が出来ると本当に思っているのだろうか?そんなの天と地がひっくり返ってもあり得ないし、仮に出来ていたとしても、そしたらこんな可愛いギャルと一緒に帰るわけ無かろう。


「か、彼女は居ないです。生まれてこの方」


 言わなくても分かる情報を付け加えてしまったが、嘘偽りの無い真実を僕は告げた。すると彼女は「そうなんだぁ」と一言言った後、少し腕組みして何かを考え始め、その後で驚天動地の提案をしてきた。


「それなら私と付き合う?」


「えっ……」


 僕の思考が完全にフリーズしてしまった。これは再起動までに時間がかかるぞ。綺羅星さんの言っている意味を理解することが全くできない。


「付き合おうよ♪勝ッチ、さっきのカップルみたいなことに興味があるんでしょ?そしたら私とやろうよ♪」


「ま、まままままままま」


 待って下さいと言いたいのだが、なにぶん再起動中なので上手く言葉を発することが出来ない。更に綺羅星さんはこう畳み掛けて来た。


「付き合おう♪はい、それじゃあキスとかしとく?」


 そう言いながら目を閉じて唇を突き出して来る綺羅星さん。嘘だろここでキスすれば綺羅星さんが彼女になるというのだろうか?そんな上手い話があってたまるか。これはクラスメート達が仕掛けた壮大なドッキリの可能性がある。しかしながら綺羅星さんが嘘をついていると考える事も出来ない。いっそドッキリであったとしてもキスしてしまおうか?彼女とキスできるのだとすれば、これからの学校生活が灰色になろうともお釣りが来るレベルである。ここは男を見せる時じゃなかろうか?

 僕は暫く考えた後、彼女のキスに対する答えを出すことにした。


「綺羅星さんやめて下さい。僕のことを異性として見て無いのに、そんなことをするのは」


「……えっ?」


 珍しく綺羅星さんの方が戸惑っているようだ。目を見開いてハッとした顔になっている。どうやら悲しいかな、僕の言ったことは的を射ていたようだ。


「一ヶ月も一緒に居れば分かります。綺羅星さんが何か別の理由で僕に優しくしてくれていることは。ありがたかったですけど、でも付き合うのはやり過ぎだと思います。好きでも無いのに付き合うなんて言わないで下さい」


「それは……その」


 しどろもどろになる綺羅星さん。そんな彼女を見ていられなくなって、僕は短い足で思いっきり走り始めた。彼女は追えば追い付けただろう、しかし追っては来なかった。それはそれで悲しい。

 だってもう僕は完全に彼女に惚れてしまっているのだから。

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