第12話 円花さんの言葉
話しているうちに喉が渇いた。円花さんに了解をとってから、立ち上がって一緒にコンビニに向かう。
「そんなにつらい思いをしたのに、私、無神経な発言いっぱいしちゃってたよね。ごめんね」
円花さんはこくんと頭を下げた。
「気にしてないよ。話されないとわからないんだから。円花さんも気にしないで」
「う‥‥‥うん。ありがとう。あのね、その助けてもらった子。きっと感謝してると思うよ」
「忘れてると思うし、忘れていいんだよ。怖かった思い出なんて」
僕は本心からそう思ってる。
「優しいね、ユージくんは」
「別に優しくなんかないよ。つらい思いなんて、少ない方がいいんだからさ」
僕はつらい思いをした。同意してもらえないどころか、距離を取られるなんて思ってもいなかったから、すごく寂しかった。つらい思い出なんて、ない方が良い。
「でも、その子はきっと覚えてるよ。なんなら上書きされてるかも。怖い思い出が、助けてもらった思い出に」
円花さんの言葉に、心がぽっと温かくなった。そういう捉え方もあるんだと。
たしかに、あの出来事は苦い思い出になっていたけど、下敷きになったことは後悔していないし、あの子のせいだなんて思ったこともなかった。
「そうだったら、いいかな」
「うん。きっとそう」
円花さんと笑い合う。円花さんが言うと、本当にそうかもしれないと思えた。
コンビニに到着したので待っていてもらう。
僕がスポーツドリンクを買って店を出ると、円花さんは別れた場所にいなかった。
どこに行ったんだろうときょろきょろしていると、円花さんの背中を見つけた。コンビニの並びにある病院の前に立っていた。
救急もある大きな病院だけど、今日は休日だからか、診察待ちらしき人たちはいない。果物の籠や花を持った人が何人か向かっていくので、お見舞いの人たちだろう。
円花さんは病院前のスロープを下りてくる車椅子の男女を見つめているようだった。二人の動きに合わせて、ゆっくりと円花さんの首が動く。
車椅子の男女は僕の母親と同じくらいか、少し若いかもしれない。四十代か五十代。僕にはその辺りの年齢の区別はつかない。白髪を染めれば若く見えるし、そのままだったら老けて見える。しかも遠いから、よくわからない。
でもひとつだけ、車椅子を押す男性がすごく優しそうな人だなと感じた。ただ押しているだけなのに、その手つきや、背後から話しかける様子に、相手への労わりを感じた。
ただ、車椅子に乗る女性の反応が薄いように思えた。ぼんやりしていて、心ここにあらずのように見える。
二人は病院の角を曲がって行く。姿が見えなくなるのを待ってから、円花さんに話しかけた。
「知り合い?」
「え?! ユージくん! びっくりした。飲み物買えた?」
気配を消して近づいたつもりはなかったのに、円花さんは肩を大きくはね上げて驚く。
「買ったよ」
ペットボトルを見せる。
「私もそれ好きだった。部活の後、よく飲んでたよ」
にこりと頬を上げた。
僕たちは再び並んで歩く。
「さっきの車椅子の人たちって、夫婦かな? 見覚えある人?」
「知ってる人なのかはわからないけど、男の人が優しそうだなって思って見てたの」
「僕もそう思った。でも、女性の方、あまり元気がないように見えなかった?」
「うん。私もそう思った」
「体調が良くないのかな? 休日に病院に行かないとだめなぐらい」
「う‥‥‥ん、そうだね。早く元気になるといいね」
円花さんは心配そうに呟く。
他人のことで親身になれる子なのかなと、円花さんの優しさに触れて、僕の心が温まった。
その後も話しながら歩き回ったけど、記憶に繋がる成果は得られなかった。
体は疲れたけれど、円花さんと過ごす時間は楽しいものだった。
自宅に帰ると、
「あああ‥‥‥祐嗣くん、やっと帰ってきた」
隣で飲食店を経営している菅原のおばさんが、僕に駆け寄る。すがるように腕を掴まれた。
「落ち着いて聞いてね。佑子さんがお店で倒れて、救急車で運ばれたの」
次回⇒13話 母の体調不良
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