水無月のころ

川瀬 翠

水無月のころ

葉の先にふくらむ雫の高慢よあなたはいつも吾を見下す


吐きだせば紫陽花になる息ばかり交はしすつかり鮮やかな肺


ストローで底をすすつて微笑んだへんな植物みたいな舌禍


白百合は水を吸いあげみづを吐く一面ガラス張りの花屋で


階段の暗さのなかでみあげれば嵌め殺し窓の青さまぶしく


残光に冷えた麦茶をそそぎつつ顎にしたたる一滴の汗


停電の夜闇のなかで息すればはるか遠くで波の気配が


遠くから月と地球は引きあつて吾らの血汐も寄せては返す


あなたから落ちる水滴 自由落下とは自由のことでなくて、それでも


梨を切ればみなぎつてゆく満ち潮の波打ち際をふたりでゆかう

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水無月のころ 川瀬 翠 @kawasemi910

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