第7話「仲間の裏切り」


「お前……なんでここに?」

 アオバが驚愕する。そこにいたのは、クラスで一番地味な転校生・灰村ミオだった。

「別に。ただゲームしてるだけ」

 ミオは無表情で答える。彼女の頭上には【フォロワー:0 いいね!:0】の表示。なのに、なぜか普通に動けている。

「圏外なのに動ける? どういうシステムだ?」

 トウマが警戒しながら近づく。

「簡単だよ。最初から期待しなければ、失望もしない」

 ミオがつまらなそうに画面をスワイプすると、隠しステータスが表示された。

【アンチ承認力:MAX】

「は? なんだそれ」

「このエリアのシステムの裏をかいてる。承認を完全に拒否すれば、逆に力になる」

 その時、ユズのハンマーが飛んできた。

「見つけた~! あ、ミオちゃんもいるんだ!」

 ユズが偽物の笑顔を向ける。

「フォロワーになってよ! そしたら仲良くしてあげる♪」

「いらない」

 ミオの即答に、ユズの顔が引きつった。

「は? 私のフォロワーになれるのに、いらないって?」

「うん。別に人気者になりたくないし」

 その瞬間、ユズの【承認ポイント】が激減した。拒絶されることで、システムが揺らぎ始める。

「ふざけないで! 私を否定するなんて!」

 ユズが本気でハンマーを振り下ろす。アオバは避けきれず、左肩に直撃を受けた。

「がああっ!」

 骨が砕ける音。アオバは地面に倒れ込む。

「アオバ!」

 トウマが駆け寄るが、ユズは容赦なく次の攻撃を仕掛ける。

「いいね!くれない人は、みんな敵!」

 狂気じみた叫び。もはや、いつものユズの面影はない。

「……削除するしかない」

 トウマが冷徹に判断を下す。

「システムに囚われてる以上、物理的に止めるしか方法がない」

「待てよ! ユズは洗脳されてるだけで……」

「だから何だ? このまま殺されろって言うのか?」

 トウマの正論に、アオバは反論できない。

 しかし、ミオが意外な提案をした。

「削除は効率悪い。それより、システム自体をクラッシュさせれば?」

「どうやって」

「簡単。ブクマーレの承認ポイントをマイナスにすればいい」

 ミオが指差す先には、ブクマーレのステータスが表示されていた。

【ブクマーレ フォロワー:∞ 承認ポイント:999,999,999】

「無理だろ。あんな数値」

「ううん。見て」

 ミオが何かを操作すると、隠しコマンドが起動した。

【アンチ・バズ:他人の承認ポイントを強制的に奪う違法スキル】

「これ使えば、一時的にブクマーレの力を奪える。ただし……」

「ただし?」

「使った人も、二度と承認されなくなる。現実世界でも」

 重い選択。誰かが犠牲にならなければ、ユズは救えない。

「俺がやる」

 トウマが前に出る。

「どうせ人に認められることなんて期待してない」

「トウマ……」

「ただし、失敗したら全員削除だ。覚悟しろ」

 トウマがアンチ・バズを起動しようとした時、アオバが止めた。

「待て。俺がやる」

「は? お前、肩が……」

「だからこそだ。このまま戦力にならないなら、せめて……」

 アオバはリンク・ギアを見つめる。このギアとアンチ・バズを組み合わせれば、もっと効果的に使えるかもしれない。

 しかし、ユズが二人の前に立ちはだかった。

「何コソコソ話してるの? 私を無視しないで!」

 ハンマーが振るわれる。トウマは咄嗟にアオバを庇い、直撃を受けた。

「ぐっ……!」

 トウマが膝をつく。防御力のない彼には、致命的なダメージだった。

「トウマ!」

「はあ……計算外だ……」

 トウマが苦笑する。

「アオバ……ユズを……頼む……」

 そのまま、トウマはログアウトしてしまった。強制排除。しばらくは再ログインできない。

「あーあ、一人減っちゃった」

 ユズが無感情に呟く。

「でも大丈夫! アオバくんも私のフォロワーになれば、ずっと一緒だよ♪」

 狂気の笑顔。アオバは、ついに決断した。

「分かった、ユズ」

 アオバが立ち上がる。

「君の望み通りにしてやる」

 リンク・ギアにアンチ・バズを接続。禁断の組み合わせが、システムを侵食し始める。

「えっ……なに……?」

 ユズの笑顔が凍りつく。彼女のフォロワー数が、見る見るうちに減っていく。

「やめて! 私のフォロワーが! いいね!が!」

「これが現実だ、ユズ」

 アオバが静かに告げる。

「数字なんて、所詮は幻想だ」

 ブクマーレの絶叫が響き渡る。

『何をしている! 私の王国が! 私の承認が!』

 システムが崩壊を始める。しかし、アオバの体にも異変が起きていた。

 リンク・ギアが暴走し、アオバ自身の感情まで数値化され始める。

「く……これは……」

 アオバもまた、システムに飲み込まれようとしていた。


【第7話 完】

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