第6話「偽りの王・ブクマーレ」



「フォロワー数、更新! 現在2847人!」

 商店街に響き渡る機械音声。アオバたちが足を踏み入れた瞬間、目の前に巨大なランキングボードが出現した。

「なんだこれ……」

 トウマがデータを解析する。

「プレイヤーのステータスが全部数値化されてる。戦闘力、人気度、承認ポイント……」

「見て! あの人たち変だよ!」

 ユズが指差す先には、奇妙な笑顔を浮かべたプレイヤーたちがいた。全員がスマホ型のデバイスを手に、必死に何かをタップしている。

「いいね! いいね! もっといいね!」

「フォロワー3000人まであと少し!」

「バズるぞ! 絶対バズるぞ!」

 同じ言葉を繰り返しながら、プレイヤーたちは街を徘徊していた。その目は虚ろで、瞳孔が「♥」マークになっている。

『おや? ランキング圏外のプレイヤーが紛れ込んでるね』

 商店街中央の巨大モニターに、SNSアイコンで構成された顔が浮かび上がる。

『私はブクマーレ。この王国のインフルエンサー・キングだ』

 ブクマーレがウインクすると、周囲のプレイヤーたちが一斉に振り返った。

「圏外プレイヤー発見!」

「フォロワー0とか恥ずかしくないの?」

「速攻ブロック対象!」

 数十人のプレイヤーが、嘲笑しながらクラフトを構える。全員の武器に「Block」「Report」「Dislike」の文字が刻まれていた。

「システムがおかしい」

 アオバがリンク・ギアを起動。プレイヤーたちの感情を読み取ると――

「これ……感情じゃない。ただの数値だ」

 承認欲求が暴走し、感情が全て数値に置き換わっていた。いいね数、フォロワー数、エンゲージメント率。それ以外の感情が存在しない。

「とりあえず逃げるぞ!」

 トウマがプリズムシールドを展開。しかし――

『【システム通知】シールド使用には100いいね!が必要です』

「は?」

 シールドが機能しない。このエリアでは、全ての行動に「いいね!」が必要らしい。

「私のスピードクラフトも……!」

 ユズも同じ状況だった。

『ふふふ、私の王国では承認されない者に力はない』

 ブクマーレが高笑いする。

『でも優しい王様だから、チャンスをあげよう。この中で一番承認欲求が強い子……』

 モニターの目が、ユズを捉えた。

『君、クラスの人気者でしょ? 本当は認められたくて仕方ないんじゃない?』

「え? 私は別に……」

 ユズが否定しようとした瞬間、彼女のポケットからスマホが勝手に浮かび上がった。

 画面には、ユズの現実世界でのSNSアカウントが表示されている。

『フォロワー523人、平均いいね!87。なかなかじゃない』

「やめて! 勝手に見ないで!」

『でも足りないよね? もっと欲しいよね? 認められたいよね?』

 ブクマーレの言葉と共に、ユズのスマホが光り始める。

「ユズ! それ捨てろ!」

 アオバが叫ぶが、ユズは動けない。画面に表示される数字が、みるみる上昇していく。

 1000……5000……10000……

「すごい……こんなにいいね!もらったことない……」

 ユズの瞳が、少しずつ「♥」マークに変わり始める。

「ダメだ! 洗脳される!」

 トウマが強引にユズのスマホを叩き落とそうとする。しかしユズは――

「触らないで!」

 信じられない力でトウマを突き飛ばした。

「私のフォロワーなんだから! 私を認めてくれる人たちなんだから!」

 完全に瞳が「♥」マークになったユズ。手には「インフルエンサー・ハンマー」が出現していた。

『素晴らしい! 君は王国のトップインフルエンサーだ!』

 ブクマーレが歓喜の声を上げる。

『さあ、圏外の負け犬どもを排除して! 君のフォロワーが見てるよ!』

「もちろん! だって私、みんなの憧れだもん♪」

 ユズが不自然な笑顔でハンマーを振りかぶる。その威力は、通常の3倍以上に増幅されていた。

「システムハックか……!」

 トウマが舌打ちする。

「承認されるほど強くなる。逆に圏外の俺たちは……」

『【警告】あなたのHPが-50されました。理由:いいね!不足』

 何もしていないのに、アオバとトウマのHPが削られていく。このままでは、戦う前に消滅してしまう。

「アオバ、一旦退却だ!」

「でもユズが!」

「今は無理だ! システムを解析しないと!」

 二人は必死に逃げ出すが、ユズが追ってくる。

「逃がさないよ~! 炎上させちゃうから♪」

 ハンマーが地面を砕き、衝撃波が二人を襲う。

 絶体絶命の時、アオバは気づいた。

 商店街の隅に、「いいね!」が0のままのプレイヤーが一人だけいることに。

「あそこだ! あいつなら!」

 謎のプレイヤーに向かって走るアオバ。そこには予想外の人物が立っていた。


【第6話 完】

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