第3話 死にたくなければ食うしかない
よく山菜を取って食べる話を聞くけど、そんな物は人間の勝手な線引きなだけで、美味しいかそうでないかを考えなければ草だったらだいたい食べれる。
致死量でさえなければ毒草だって食べれない事はない!
「腹減ったぁぁぁぁ!」
頭じゃわかって居ても実際に食べるとなると、そんな簡単な訳がない!
あっちの草は苦い、こっちの実は渋い、そっちの茎は硬い、毒草の致死量なんてわからんのに怖くて食えるか!
この森にしか生育して居ない植物も多いのでそれを採取しに、ここには父親と何度かきたことがある。
その時に教わった知識を総動員してなんとか食べれる草やレモン並みに酸っぱい果実を確保しているが、いかんせん絶対量が少ない。
……このままじゃジリ貧だなぁ
じっとゴブリン草を見る。
これもこの森でしか採取出来ない草の一つ。
本当の名前は知らないけど、うちの村ではゴブリンみたいに腐ったものでも食べられるようになる草。
だから、ゴブリン草。
要するに胃薬兼解毒剤になる草である。
良薬口に苦しって言葉が正しいなら間違いなくこの草は良薬。
潰して丸めて、味を感じる前に無理矢理飲み込まないと体が震えるくらいの苦さが襲ってくる。
とてもじゃ無いがこんな物腹が膨れるまで食うとか、絶対無理。
……覚悟を決めるしかないかぁ。
この森で狩る側にならないと、生きていけない
茂みに隠れながら、音をたてないようにそっと獲物に近づいていく。
服の裾を裂い布切れに、そこら辺に落ちている石を弾にした即席のスリングと、枯れかけの木からへし折った太めの枝を棍棒代わりに持っている。
とりあえず誰でも少し練習すれば使えるスリングと、棒術の天賦頼りの枝……もとい棍棒である。
なんとかスリングの射程距離内まで近よることができた。
早速スリングで攻撃する。
狙う獲物はゴブリンである。
なぜウサギなどの小動物じゃなくてゴブリンなのかって?
それは「ギィギャァ!」
あいつらは人間の子供相手に逃げない。
小動物は隠れるのも逃げるのも上手い。
まともな武器も罠も無いのにそれを捕まえるなんてどう考えても無理。
こいつらなら、相手が弱いと思えば襲ってくるので逃げられる心配はない。
とはいえ、真正面から襲われて勝てる自信もないので、一目散に逃げる。
全力で逃げて目印にしておいた大きめの木の影に隠れるように直角に曲がった。
ゴブリンが同じように木を曲がろうとする。
「フギャギャギャ!」
根本に草を半円の輪のようにした罠に足がひっかかり、そのまま前方に倒れる。
ラッキー! バランス崩すくらいだと思ってたのに、転んだおかげで目の前に無防備の後頭部を狙える!
全力で、かれえd……武器の棍棒を後頭部に振り下ろす!
断末魔の悲鳴と共に憐れゴブリンは絶命した。
棍棒も折れてしまったので、倒せなかったらちょっとヤバかったかもしれない。
いや、一撃で折れるほどの強撃を与えたのかも……ここはそう思っておこう。
ゴブリンを食べるのかって?
それは無理!
見た目とか味とか以前に、ゴブリンは魔物である。
魔物は、魔素に返る物って意味。
今倒したゴブリンも黒い霧のようなものが出てきている。
そしてだんだん身体が薄くなっていき、来ている物から持っている武器まで含めて全て消えていく。
魔素に返るのであ……なんだ? なんか魔素こっちにまとわりついてくる!
気持ち悪っ!
そして、魔物では無い部分はそのまま残る。
例えば、コイツらが狩った獲物の肉とかね。
そう! 俺は生きる為にゴブリンの食い残しを食う!
自分で言っててめちゃくちゃ情けないが仕方がない!
ウサギとか今の状態で獲るの無理だもん!
ただねぇ、ゴブリンの食い残しだからねぇ、やっぱりほぼ腐肉だよ。
火! なんとかならんか!
せっかく魔法ある世界なのに! 魔術の天賦MAXにしたのに! 使い方わからねぇってどういう事!?
囁いたり、詠唱してみたり、念じたり、したけど何も起きない。
死者復活させろとか言ってないのに! ちょっと火が出れば良いだけなのに!
前世でサバイバルやキャンプ動画とかよく見たけど、あれってそもそも乾いた木すら手に入らない状況じゃなんの役にも立たない!
でもまあ、予想はしてた、覚悟も決めてる、腐肉とゴブリン草と口直し用にレモン並みに酸っぱい果実。
死にたくなければ食うしかねえぇ!
ゴブリンの食い残しを漁るという生活を続けて数週間経った。
前までは2匹を同時に相手取るなんて無理な話だったけど、最近は慣れてきたのか複数の相手でもなんとか出来るようになってきた。
この世界にも経験値みたいのるのかな?
ステータスオープン! とか叫んでみたけど何も起きないし、体感でしかないけど、強くなってる気はする。
とにかくこの森を縦断して入り口に辿り着く以外の選択肢が無いんだから、ゴブリン漁りをしながら進むしかない。
「あれ? なんで?」
ゴブリンが使ってた棍棒である。
棍棒が消えないで残っている。
前世の記憶的にはモンスターのドロップ品という、ファンタジーゲーム要素満載の考えが浮かんでくるけど……。
魔素に返らない物もあるって事なのかな? っていうか目の前にあるんだからそういう事なんだろうな。
なんにせよ、武器が手に入ったのはありがたい! 毎度毎度、枝折ってくるの大変だったし。
さらに数週間経った。
……やっぱり強くなってる。
そろそろ、瓢箪の真ん中の絞り口辺りまできているんだけど。
この森は入り口に近くづくほど強くなる。
出入り口が一つしかないから、どの魔物もそこに集中していくので当然弱い奴は淘汰されてしまうからだ。
俺の出発点がほぼ瓢箪の底辺りだったから、弱い敵から徐々に強い敵に向かって行っている状態になるんだけど、体感的な難易度が変わらない。
『数匹のゴブリンとやり合っても勝てる程度』
この状態がずっと続いている。
明らかに体力が増えているようで、1日に相当な数のゴブリンを相手にしているのにそこまで疲労して居ない。
おかげで予備の棍棒が3本ほど確保出来ている。
そして、瓢箪の真ん中辺りまで辿り着いた。
そこに見えるものは、集落だった。
人……な訳がなく、犬っぽい頭にみょうにツルツルした肌、コボルトの集落だった。
あースーパーハードモードになんかに、するんじゃなかったぁぁぁぁ!
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