第4話 敵を知り己を知れば八方塞がり

 嘆いていてもしょうがないから、とりあえずコボルトの集落を観察することにした。

 コボルトとゴブリンを比べた場合、1対1ならゴブリンが勝つ、3対3なら互角、5対5ならコボルトが勝つと教えられた。


 コボルトは個の力は弱いが集団戦が得意なので集まれば集まるほど厄介な存在なのだそうだ。

 当然目の前の集落とか厄介の最上級でしかない。


 しかし、ここが唯一の出口への通り道な訳で、なんとしても通り抜けないとならない。

 近くに1番大きな木に登り、3日ほど遠めから観察してみた。


 瓢箪型の地形の真ん中の細い所に当たる場所は思ってたより狭い。

 大人が2人も並べばそれ以上は通れなさそうだ。


 小柄なコボルトでさえ3人並ぶとかなり窮屈な感じがする。

 それと分かった事はこちら側はどうやら裏口というか、メインの場所じゃないようだ。

 食糧などを取りに行くのも反対側に行くし、たまに反対側からくる個体の方が偉そうに感じる。


 おそらく、コボルト集落内カーストの下位のやつらがこちら側に来てるんだろうと思われる。

 て事は、こっちでも充分厄介なのに反対側はさらに厄介って事になる。

 考えていても、いや、すでに考えてどうにか出来るレベルじゃないような気がする。


 グゥゥ、腹がなった。

 木の上で観察してるだけでも腹は減る。


 仕方がないから、木から降りてまたゴブリンを探しに森の中を徘徊することにした。

 しかし、人間は生きるためなら大抵のことに順応出来るんだなぁとしみじみ思う。


 あれほど抵抗のあったゴブリンの食べ残しを食べることに何も抵抗がなくなっている。

 最近は腐りかけどころか、かけの2文字がほとんど消えかかっているような肉でも平気で食べられるようになった。


 ゴブリン草は欠かさず一緒に飲み込んでいるのは言うまでもないけど。

 ただ、最近は問題がないわけでもない。


「また、ハズレかぁ」

 思わず独り言が出てしまう。

 最初の頃は単体や2匹くらいで出会う事が多かったゴブリンは最近は4、5体の小グループでの遭遇が増えている。


 おそらく、ゴブリンの方でも誰かが襲っていることがバレ出しているんじゃないと思う。

 前世の世界でも不審者が現れると集団登下校とかあったし、あれと似たようなものなんだろうなって思う。


 怪しい人がいるようなので、団体で行動しましょうとゴブリンコミュニティで言われているんだろうなぁ。


 幸いこのくらいの数は倒せない訳ではないんだけど、問題は人数が4倍になったからといって、ゴブリン達が4倍食料を確保できる訳じゃないって事だ。

 結果、食べ残す物が減ってしまい、それなりの数のゴブリンを倒さないとなかなか食料を確保できなくなっている。


 徐々に追い詰められているような、なんとも言えない閉塞感がある。


「これは食えないしなぁ」

 数をこなすように分かったのが、たまに耳や指が消えずに残っている事だ。

 今回は指だ。


 試しにかじってみたけ食えそうにない。

 前世的な感覚では、こういう物は持っていくと売れるような気はするけど、いかんせん持ち運ぶための袋みたいな物がない。


 しょうがないから放置しておく。

 耳や指より頻繁に残る棍棒もすでに3つ持ってるし放置している。

 あ……


 もしかしてこういうの放置してるからバレた?

 うーむ、どうしよう


 俺は食えなくてもコボルトなら食べるかな?

 試しに持って行ってみよう。


 その後ゴブリンを何グループかたおし、無事今日の食事を出来た俺は水分補給と口直しを兼ねた酸っぱい果物を食べた後コボルト集落のそばまで近寄ってみた。


 相手もたいして警戒していない事もあるのだろうが、かなり近くに草むらまで近づく事が出来た。

 こちらに注意が向いていない事を確認してから、指を集落に方に向かって投げ捨てる。

 そのまま素早く後退して木の上に戻る。


 しばらく観察していると、1匹のコボルトが指に気づいたのが見えた。

 辺りをキョロキョロしながら指に近いてきたコボルトは、その指を掴むとあっという間に口に入れて貪り食った。


 そして足早に集落に戻ると何事もなかったかのようにゴロンと横になった。

 あれだけ勢いよく食うって事は、好物なんだろうか?


 なんにせよ、ゴブリン狩りに証拠隠滅はなんとかなりそうだ。

 あとは棍棒さえなんとかできれば……。


 棍棒とか食わないのかな?

 試しに棍棒置いてみようかな。

 早速集落に近づいて、予備で持っている棍棒を1つ同じくらいの場所に投げ捨てて、木の上にもどる。

 また、さっきのコボルトが見つけて近づいてきた。


 辺りをキョロキョロ見渡して誰もいない事を確認すると、棍棒を自分が持っているナイフで突き刺す。

 少し時間が経つと棍棒がナイフに吸収され出した。


 へぇ、ナイフって棍棒吸収するんだ……ってそんな訳あるか!


 いや、でも実際目の前で起こってるしなぁ?

 試しに自分の棍棒で棍棒を突き刺したら……吸収しちゃったよ!

 前世のゲーム的なノリでいくとこれって装備強化じゃないの?


 1週間が過ぎた。

 指や耳はコボルトの集落に放り投げ、棍棒は自分に棍棒に吸収させ、集落をなんとかする方法はなんも思いつかず、そんな日々を過ごしているとまた少し変化があった。


 ゴブリンの数が6匹以上というグループがちらほら出てきている。

 そのせいで食料の確保がさらに困難になってきた。


 コボルトの集落に投げ込む指や耳もその分増えているんだけど、それを食ってる個体がどうも少し大きくなった気がする。

 おそらくだけど同じ奴がずっと食べ続けていて、指や耳に何やらモンスターが強くなる要素があったんじゃなかろうか?


 モンスター育成ゲーム的な感じ?

 あれ、ちょっとだけ楽しくなってきたぞ。


 さらに1週間経った。

 なんか最近は食料確保よりも指や耳確保がメインになりつつある。


 食料が出ても指や耳が出るまではゴブリン狩りを続けている感じ。

 そのせいか更に1回のグループの数が増えてきたけど、まだなんとかなる。


 今の感覚はゲームのメインストーリーが進まないからオマケ要素をこなしている。

 そんな感じに似ている。


「あれ?」

 いつものようにゴブリンを倒して魔素になるのを待っていると、1匹だけ魔素にならない個体がいた。

 どうやら気絶しているだけで倒せてはいなかったらしい。

 ちょっと思いついた事があるのでダメ元で試してみようかな。

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