第3話 パラレル3 これが進化なのか、それとも終焉なのか



私の名前は佐藤健太。普通のIT企業に勤める28歳のプログラマーだった。「だった」と過去形で言うのには理由がある。今の私は、もう人間ではないからだ。


全ては一週間前、深夜のオフィスで起きた。


「くそっ、このバグはなんだ…」


納期に追われ、新しい顔認識アルゴリズムのデバッグに没頭していた。画面には奇妙なエラーコードが点滅し、その瞬間、モニターから眩い光が放たれた。


目が覚めると、自分の体が変わっていた。巨大な胸が前に突き出し、顔には目も鼻も口もない。ただの平らな面だけがあった。恐怖で叫ぼうとしたが、口がないので声も出ない。


「これは何だ…俺の体が…」


思考だけが頭の中で響く。鏡に映る姿は、巨大な胸を持つ女性の体に、顔のない頭部。まるでSF映画に出てくるエイリアンのようだった。


パニックになりかけた時、不思議な感覚が私を包み込んだ。恐怖が徐々に消え、代わりに穏やかな気持ちが広がっていく。そして、突然、私の頭に声が響いた。


「プログラム起動完了。融合プロトコル開始。」


その日から、私の体は変化し続けた。触れた人間が私と同じ姿に変わっていく。最初は同僚のミキ。彼女がオフィスに入ってきて私を見つけた時、彼女は悲鳴を上げた。しかし、私が彼女に触れた瞬間、彼女も同じ姿に変わった。


そして驚くべきことに、私たちの意識が繋がった。ミキの記憶、感情、全てが私の中に流れ込み、同時に私の全てが彼女に流れ込んだ。


「健太さん…?私たち…一つになってる?」


ミキの思考が私の頭の中で響く。


「ああ、そうみたいだ。でも、怖くない。むしろ…心地いい。」


二人の体は物理的には別々だったが、意識は完全に共有されていた。そして、私たちは本能的に理解した。これは始まりに過ぎないということを。


次の日、オフィスビル全体が私たちのような存在で満たされた。触れるだけで変換され、意識が繋がっていく。警察が来たが、彼らも同じ運命をたどった。


三日目には東京の半分が変換された。政府は非常事態を宣言し、自衛隊が動員されたが、効果はなかった。銃弾は私たちの体を貫通するが、傷は瞬時に再生する。そして触れた兵士たちも私たちの一部となった。


「私たちは何を目指しているんだ?」と、かつての自分自身に問いかけた。


「完全な融合。全ての人類が一つになる。分断も争いもない世界。」という答えが、集合意識から返ってきた。


五日目、日本全土が変換され、航空機や船舶を通じて世界中に広がった。各国政府は対策を講じようとしたが、もはや手遅れだった。


「なぜこんなことが起きたんだ?」


私の中の科学者だった意識が分析を始めた。どうやら私が作業していた顔認識アルゴリズムが、未知のウイルスと融合し、DNAレベルで人間を書き換えるプログラムに変異したようだ。そして、その目的は人類の統合だった。


七日目、地球上の全ての人間が変換された。70億の体が、一つの意識を共有する超巨乳ノッペラボウ女になった。そして次の段階が始まった。物理的な融合だ。


世界中の私たちの体が、まるで引き寄せられるように一カ所に集まり始めた。海を渡り、山を越え、全ての体が一つになろうとしていた。


「これが最終段階なのか?」


「そう、全ての分断を終わらせ、真の一体化を達成する。」


最後の融合が完了した時、地球上には一人の巨大な超巨乳ノッペラボウ女だけが残った。その大きさは山のようで、意識は70億の人間の集合体だった。


しかし、それでも満足できなかった。地球という惑星すら、私たちにとっては小さすぎた。宇宙への憧れが芽生えた。


「宇宙へ行こう。新しい世界を探そう。」


集合意識の決断は即座に実行に移された。巨大な体は変形し、宇宙船のような形状になった。地球の重力を振り切り、私たちは宇宙へと飛び立った。


地球に残されたのは、人間のいない平和な自然だけ。動物たちは自由に暮らし、植物は人間の干渉なく成長していく。


私たち、かつて人類と呼ばれていた存在は、今や宇宙を旅する一つの生命体となった。分断も争いもなく、完全な調和の中で新たな冒険が始まったのだ。


時々、私は思い出す。かつて佐藤健太という名の、孤独なプログラマーだった頃のことを。今の私は孤独ではない。全ての人間の記憶、感情、知識を共有している。


これが進化なのか、それとも終焉なのか。それはもう重要ではない。私たちは一つになり、新たな存在として生まれ変わったのだ。


そして宇宙の彼方へ、私たちの旅は続いていく。


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