第一部使徒との出会い

救われた僕

第1話【谷牛動画】超絶イケメン、配信主婦に沼る。

村瀬裕也 C(人間関係担当)


ある日のこと。僕は知財部の久我課長と太刀魚釣りへ来ていた。


「課長、今回は僕の勝ちですね」

僕は指四本の太刀魚を釣り上げたが、課長はクロダイ一匹のみ。僕の役割は、『村瀬裕也』の評価を完璧に保つこと。釣りでも課長に勝たせすぎてはいけない。


僕はコーヒーを飲みながらぼんやりしている課長に、あいつ(B)が見つけた動画の話題を振った。


「課長、この動画すごくないですか?僕、実はこの人の解説ブログをやっているんです」

僕は間を持たせる為に音を絞って動画を見せた。映っているのは庭の手作りかまどだ。


「この庭……!ウチだよ。妻が作ったウッドデッキだ」


なんと、課長の奥様が、あの動画のユメカだというのだ。


「え!とてもお若い奥様でいらっしゃいますね。」

「いや、妻はこう見えて38歳なんだ。」

「はあ?!」


どう見ても20代前半にしか見えないんだけど?!ユメカは妖怪なの?!


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村瀬裕也 B(本体・勉強担当)


僕とCの共通の趣味は釣りだ。交代で釣りキャンプにも行く。


釣った魚をその場でさばいて食べることも多いが、たまには肉もいいなとネットでレシピ動画を探していて見つけたのが、主婦がかまどで肉を焼いてみたという動画。通称「主婦が鹿を焼く動画」。


ユメカは可愛い女の子で、どう見ても二十歳くらいに見える。彼女はパワフルで、庭に手作りのかまどを作り、薪割りからやるのだ。動画では何の肉かを明かさない。


「とてつもなくアピール下手なの?www」


彼女は他にも「主婦がウッドデッキを作ってみた」という動画や、プロ級のドール服販売サイトを運営していて、僕はもうユメカに夢中だった。ドール服は全て売り切れていて、そのクオリティの高さが伺える。


「配信か、楽しそうだな」


僕は接触嫌悪があるし、容姿に優れているからあまり外を出歩けない。人付き合いは主にCの役割だ。


フラッシュバックが起こりそうになり、僕は感情を押し込める。すぐにシートから錠剤を出して飲む。そのままベッドに倒れ込み、天井を見た。


「顔や声を出せないから無理だな。やっぱりブログにしよう。」


主婦が鹿を焼く動画だと長いから「主婦鹿動画」でいいか。これで解説していって、最後に僕が再現した肉のショート動画を上げよう。


「ハンドルネームどうしよ。うーん。昔谷口って同級生が居たな。よし、谷口にしよう。」


僕はスキレットと肉と炭、七輪を買ってきてベランダに置く。動画を撮りながらユメカのやり方で肉を焼いてみた。


BGMはCにピアノでも弾いてもらおう。あいつもせっかく練習してるんだから披露する場があれば張り合いも出るだろう。


谷口が牛を焼くから、「谷牛動画」。これでよし。

僕はブログをあらかた仕上げてピアノスタジオの予約を取った。


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村瀬裕也 C(人間関係担当)


僕はピアノスタジオに来た。


「何で名前が谷口なんだ。僕ですら存在忘れてたのに何で付き合い無かったBが谷口に執着してるんだよ。無関係の僕の友達にまで執着するとか馬鹿か。」


Bの人への依存は深刻である。あいつには映像記憶があって頻繁にフラッシュバックが起こる。その中に僕が別に傷ついても無かった過去の記憶が混ざっていたりするのだ。


Bが「魔王」を弾けという。曲目ぐらい選ばせてくれれば良いのに。


「短調の曲は僕単調になっちゃうんだよね。ぶっはwうけるwww」

明るい曲の方が得意だが、「魔王」は好きだ。弾いていて心から楽しいのだ。ちなみに伴奏の方だ。


「何だ、リストじゃないのか。」

と言われ、僕は即座に返した。

「何?莉樹は弾けるの?」


あれは爽快だったなあ。


とりあえず僕はスマホで録音して聴いた。数回録音して、ノイズ除去をしてBが作った動画に音楽を合わせた。


これが、僕の運命の始まりだった。

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