7 話すべきこと
北竜町のひまわり畑に到着したのはそれから1時間ほどしてからだった。この日は丁度曇天であったがそれでもひまわりは鮮やかに咲き誇っていた。
「動画で見るよりも綺麗だなぁ」
和田はひまわり畑の光景に感動している様子だ。但野も自分が想像していたよりも広い規模だったので驚いていた。
「俺の予想よりも凄いですねこれ」
よく菜の花畑を黄色い絨毯と形容することがあるがこのひまわり畑の光景はまさに黄色い絨毯そのものだった。
「さてと、丁度腹も減ってきたから飯でも食うか」
「なんか食べる所あるんですか?」
「ああ、あそこに」
和田が指さした方向には丁度建物があった。中に入ると確かに飲食店が何店舗か入っっている。但野はそこのスープカレーが気になった。
「和田さんはどこ行きますか?」
「あそこのカレー気になるんだよな」
「奇遇ですね、俺も気になってました」
「じゃあそこにしようか」
注文してしばらくすると店員が料理を運んできた。米は五目米でカレーの中には揚げたナスとカボチャの他に大き目な豚肉が入っている。歯ごたえのありそうなものと予想してスプーンでつつくと意外に柔らかい。
「それじゃあ、いただきます」
「いただきます」
但野は米をひと掬いするとカレースープに浸して口に運んだ。味はスパイスが効いているが辛すぎず、丁度良い塩梅である。豚肉も柔らかくなるまで煮込んでいるのか、食べやすい柔らかさとなっている。
「これ選んで正解だったな」
「そうですね和田さん。そういえば和田さんってスープカレーとか好きでしたっけ?」
「普通くらい。俺はやっぱオーソドックスなルーのカレーの方が好きなんだよな」
「俺もです。でもたまに食いたくなるんですよね、こういうの」
「分かるわ、やっぱ道民ならそうなるよな」
そう言いながら食べ進めていくと和田の目に何かが止まったようだ。彼が食べ終わるとすぐさまそちらの方へ歩みを進めていった。
「あれ、どこ行くんだ?」
但野は残りを食べ終えると和田の歩いて行った方へ向かった。丁度そこは手芸店だった。
「この髪留め一つ」
「はい、3300円です」
どうやら本気で青山へのプレゼントを買っているらしい。但野は真実を話すべきなのかますます分からなくなった。和田が会計を済ますと髪留めをポケットにしまい、他の店を見て回った。
「和田さん、さっきのって」
「さっきも言ったろ?サプライズだ」
「は、はあ」
「それにしても色んな店あるもんだな。お前もなんかお土産買って置いたらどうだ?」
「え、俺ですか」
とはいえ、但野自身そこまでそそられるものがあるわけでもない。というより雨竜で取ったゆめぴりかが今回のお土産のようなものだ。
「いやあ、俺は特にないですね。むしろ月末からの研修先で何か買ってきます」
「あああれか。正直沖縄ってどうなんだろ?俺行ったことないからよくわかんねえ」
「俺もです。大阪よりも南は行ったことないので」
そんなことを話しながら二人は車へ戻った。時刻は14時を回ろうとしている。
「下道で行けば夕方ごろには札幌に着くべ。晩飯には丁度いい時間だな」
「ああそうですね。でも何食おうか思いつかないです」
「俺も腹いっぱいだからなんも考えたくねえ」
そう言いながらも一行は車を走らせ、札幌へと向かった。
「帰りは空いてるな。やっぱ出ていく方が多かったのか」
「そうみたいですね」
そんなこともあって16時頃には一行は札幌に到着していた。夕食には少し早い。
「ちょっと早く着いちまったな。ん?」
和田はスマホに通知が入ったらしく、画面を確認した。
「どうかしました?」
「友達からだわ。来月から札幌に異動だって」
「来月?」
それを聞いて但野は青山の恋人のことを思い出した。その人も丁度9月に札幌に転勤してくるのだという。
「ご友人はどこに務めているんですか?」
「飯屋だよ。そんなもんだからあいつと飯行くとき結構接遇とか厳しいんだわ」
「はあ」
確か青山の彼氏も飲食だった。飲食はこの時期に動くことが普通なのだろうか、それとも偶然だろうか・・・。
「まああいつも札幌戻りたがってたし、ある意味栄転ってことだな」
「確かに、そうですね」
但野は和田のことが気がかりだった。やはり事実をはっきりと伝えておくべきだろうか。だがここで素直に真実を話せば和田は必ず傷つく。しかし言わないでおけばそのうち真実にたどり着いてしまう。その場合も必然的に傷つくことになるだろう。要は傷つくタイミングが早いか遅いかだ。そう考えると今この場で話してしまった方が良いのだろうか。
「・・・あ、あの」
但野が話しかけようとしたとき、和田は「あ!」と声を上げた。
「但野、お前洋食は好きか?」
「え、洋食?まあ好きですけど」
「親父が紹介してくれた店ですぐ満席になる店あったんだ。今のうちにそこ向かえば間に合うかも。晩飯そこにするか?」
「え、ええいいですよ」
「よし、それじゃあそこ行くか」
そのまま和田は北野の方まで車を走らせた。たどり着いたのは住宅地にほど近い場所だった。
「ああもう車停まってる。でも少ないな。丁度良かった」
時刻は16時半。少々早い気もするが店内に入ると既に席のほとんどが埋まっている状況だった。余程人気の高い店なのだろう。
「とりあえず俺はもう決まったから、何にするか選べ」
そう言って和田は但野にメニューを手渡した。一覧にはカレーやパスタ、グラタンにハンバーグなど洋食と聞いて思い浮かぶ料理が並んでいた。
「じゃあ・・・エビピラフで」
「じゃあ俺はチーズインハンバーグ定食」
注文をしてからしばらくして料理は運ばれてきた。和田の頼んだハンバーグ定食は皿にご飯が盛り付けられており、いかにも洋食店と言った雰囲気である。但野はご飯は茶碗で食べるのに慣れているのでこういった盛り付けはあまり好みではない。
「ほら、少し食ってみな」
「あ、ありがとうございます」
和田はハンバーグを少し切り分けるとそれを但野の皿に移した。試しにハンバーグを食べてみると確かに美味だ。肉汁がしっかりと閉じ込められており、それでいてひき肉の食感が上品に感じられる。こういったハンバーグは今まで食べたことが無かった。
「何というか、上品なおいしさですね」
「気に入ってくれたか。また来ることがあったらハンバーグ頼んだ方が良いぞ」
「そうですね」
それから二人は会話もせず黙々と食事を進めた。だがその間も但野は青山のことを考えていた。
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