6 先輩とドライブに行くということ
それから約1週間後、クローバーモーターズはお盆の長期休暇に入った。営業時代は火曜か水曜以外の曜日で休むことが非常に困難だったため、長期の休みというのは特にありがたいものだった。だが本社に移ってからというもの、曜日に忖度することなく休日を設定することが出来るようになったため、そこまでありがたみを感じなくなっていた。だがそれでも長期の休みというのは骨休めにはちょうど良い。
とはいえ、但野自身この連休中特にすることも無かった。しいて言えば今月末から石垣島で研修が行われるのでその準備も取り掛からねばならない。だがそれ自体はそこまで苦ではない。一番の苦痛は「何も予定が無い」ことだ。
「・・・暇だ」
但野は自室のベッドに横たわりながらつぶやいた。すると突然和田から連絡が入った。
「お疲れさまです」
「ああお疲れ、明日暇?」
「え、はい。ていうか毎日暇です」
「じゃあどっかドライブ行かない?青山誘ったんだけど断られて」
但野は青山の彼氏のことを思い出した。だがここでは触れないでおこうと思った。
「ちなみに、どこまで行く予定ですか?」
「北竜まで行ってひまわりでも見ようかなって。結構有名らしいから」
「北竜ですか」
但野はピンと来ていなかった。だが彼が誘ってくれるというのであれば別に嫌な理由はない。
「何時にどこ集合にしますか?」
「じゃあ大谷地神社前のファミリーマートにすっか。9時からで大丈夫?」
「大丈夫です」
「了解。何か予定入っちゃったら教えて」
「分かりました。お疲れさまです」
そう言って電話は切れた。そのまま但野は北竜町の場所を調べた。
「・・・留萌行く途中の所か。結構離れてるな」
但野自身空知の方にはあまり行く機会は無く土地勘も無い。自分で遠出をして一番遠い所というとせいぜい室蘭辺りが限度だった。そのため普段行かない場所に行けるという高揚感が湧いてきた。
翌日、但野は時間前にファミリーマートに到着した。するとあまり時間を置かずに和田の乗るエクリプスクロスが到着した。
「お疲れ」
「お疲れ様です。今日はよろしくお願いします」
「おう、先に何か買っておくか」
「はい」
二人は店内で必要なものを購入すると早速北竜に向けて車を発進させた。
「この辺りって行くの初めて?」
「そうですね。あまり来る機会無かったので新鮮な感じです」
「そりゃ良かった。まあ俺も初めてだわ」
「そうなんですか?」
「ああ。なんかそこのひまわり畑が綺麗ってので有名だからいい機会だし行ってみようかなって」
但野はふとひまわり畑の光景を想像してみた。きっと一面ひまわりが咲き乱れ、かなり鮮やかな景色なのだろう。
「まあ本当は青山誘いたかったんだけどな。でも引っ越しとかあるっていうからダメだった」
「え、でもどうして青山さんを」
「あいつも男に逃げられて寂しいと思ったからさ。それにせっかく残った同期なんだから休みの間に仲良くするのもいいもんだろ?」
「あ・・・」
ここで初めて但野は青山が彼氏持ちであることを和田が知らないことを知った。確かに今まで休憩室で青山の交際相手について話しているとき、和田は丁度その場にいなかった。というよりその話題が途切れたタイミングでいつも休憩室に入ってくるので情報の仕入れようが無かった。こればかしは和田のせいというより運命のせいである。
「それでせっかくだからなんかプレゼントでもあげようかなってな。サプライズってやつだよ」
「そ、そうですか」
但野はふと和田の顔を窺った。その目にはどこか光が宿っている。おそらく店舗時代には無かったものだ。そう思った瞬間但野は一度だけ店舗でこのような表情をしたことを思い出した。生命保険会社の人に恋をしたとき、その人にプレゼントをしようと考えているときの目だ。
「ああ、あの時の」
但野は嫌な予感がした。今のままでは確実にあの時と同じ轍を踏むことになる。だがこの状況で但野は和田に真実を伝える勇気が出なかった。もしここで彼に本当のことを話して、彼がどれだけ苦しむことになるのかは火を見るよりも明らかだからだ。
「それにしても青山のやつ、せっかく俺も引っ越し手伝うって言ったのに。あんたはいらないって断られちまったよ」
「え、そうなんですか?」
「ここで好感度稼いどけば次はもっと良いとこ行けると思ったんだけど失敗したな。まあそれよりもまずは、あいつを驚かせてやらないとな」
和田は不敵な笑みを浮かべながら先行車を追い越した。
「おらおら、トロトロ走ってんなら家に帰りやがれ。遅い奴は全員免許返納しやがれ」
「連休で不慣れなドライバーが増えてきたんじゃないすかね」
「ああサンデードライバーか。自分が迷惑かけてるって自覚のない馬鹿どもめ。ああいう奴らは前しか見ないで後ろを見れない本当の馬鹿っていうんだ。お前も気を付けろよ」
「はい」
そうこうしていると一行は雨竜町の道の駅にたどり着いていた。
「少し休憩しとこう。アイスとかあるらしいぞ」
「あ、いいっすね」
但野は車から降りるとそのままソフトクリームを買って食べた。冷たいものを食べたことで先程まで感じていた若干の眠気が覚めた。すると和田が何か見つけたらしく、彼に声をかけてきた。
「但野、なんか米のUFOキャッチャーあるぞ」
「米ですか?」
よく見ると「ななつぼし」と「ゆめぴりか」の2種類が2合入っている袋が入っていた。
「ちょっとやってみるか」
和田は100円を入れてレバーを操作した。ゲーセンではないためかアームは意外にも強めに設定されており、すぐに一袋ゲットすることが出来た。
「よしななつぼしだ。お前もやってみな」
「はい」
但野も100円入れてレバーを操作した。なんとなく引き当てたのはゆめぴりかだった。それを見て和田は少しうらやましそうな様子だ。
「マジかよ但野、お前それ取れたのかよ」
「なんか、すいません」
「まあいいや、そろそろ出発しよう」
「分かりました」
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