4 同期のいる店に赴くということ
12時過ぎ、少し早めに店内に入れた為、比較的空いているタイミングで昼食を食べ終えることが出来た但野はそのまま社用車の中に入った。
「ああまずい、眠気が」
いきなりラーメンを流し込んだこともあってか但野は血糖値スパイクを起こしかけていた。眠気が残った状態で運転するのは非常にまずい。
「・・・寝よう」
但野は10分後にアラームを設定して仮眠をとった。だが10分と経たずに但野はスマホに起こされた。
「うわぁ!電話かよ!」
電話の主は田中からだった。但野は眠気が残りながらも電話に応答した。
「はい」
「ああお疲れ、昼食った?」
「はい何とか。何かありましたか?」
「ごめん、伏古なんだけど追加で津田が下取りしたアウトランダーも写真撮ってきてくれない?」
「え、津田の下取りですか?分かりました」
「とりあえず後で車体番号送るから。よろしく」
そう言って電話は切れた。それと同時に但野はため息をついた。
「津田かよ」
田中が電話を切った後、彼女は休憩室でタバコを吸っていた。夫からはやんわりと禁煙を勧められているが食後の一服が無ければ午後からの業務に支障をきたすため、止めるに止められない。
「・・・あれ、津田って呼び捨てしてたけど同期だったっけ?」
田中は先程の電話のことを思い出していた。彼女自身下の世代の関係性をそこまで把握しているわけではない。辛うじて本店の恋愛事情に少し明るいだけだ。田中は気になってタブレットで組織図を確認した。
「えっと伏古の津田・・・ああ確かに同期だ」
但野の同期は彼を含めるとあと7人は残っているようだ。すると人事部の斎賀と総務部の大原が休憩室に入ってきた。
「おお田中、相変わらず禁煙出来ないな」
「ヤニ入れないと仕事出来ないんですぅ。それ言うなら大原部長も同じじゃないですか?」
「痛いとこつくなぁ課長さん。それより斎賀、この前面接した子はどんな感触だった?」
「あああの大学生ですか?まあ平々凡々って感じですかね。正直とがったところが無いっていうか」
どうやら来年度新卒の社員の面接があったようだ。それを聞いて田中はふと先程のことが気になって斎賀に質問した。
「そう言えば伏古の津田とうちの但野って同期でしたよね?」
「え?ああそうだったな。それがどうかした?」
「研修中どんな感じでしたか?なんか仲悪かったとか無いですよね?」
それを言われて斎賀は困った表情をした。
「そうだな・・・正直津田はなんていうか、仕事はできるんだろうけどどこかとげがあるっていうか・・・他の人に厳しいっていうか」
「厳しい?」
「ああ。なんていうか潔癖すぎるのかもな。でも、どこか無理してるって感じもするんだよなぁ」
そう言われても田中にはピンと来なかった。
「よくわかりませんけど、あんまり仲良さそうな同期はいなかったんですかね?」
「むしろ仲良しこよしが嫌なタイプなのかもな。部活の強豪校みたいな感じっていうか・・・なんていうか」
斎賀がそう言っていると和田が休憩室に入ってきた。
「あ、お疲れさまです。強豪校がどうかしましたか?」
「ああ和田。いや、うちの但野と津田が同期って話してて」
「津田?伏古の?」
「そう。知ってる?」
和田は苦い表情を浮かべた。
「彼っていうより、伏古の店い全体がなんか殺伐としてるっていうか。それこそさっき斎賀さんがおっしゃってたように強豪校みたいな雰囲気っていうか」
「えっと、和田って高校は剣道部だったよね?」
斎賀が和田に聞いてきた。和田はそれに「はい」と答えて続けた。
「強豪校の連中ってとこか殺気立ってるっていうか、話しかけるだけで斬りかかってきそうな気迫を感じるっていうか・・・とにかくそいつらといるだけで変な汗が出ますよ。針のむしろって奴すかね」
それを聞いて斎賀と大原はどこか納得したような感じだった。
「確かに。俺も高校私立だったから体育部強かったけどそんな感じしたなあ」
大原は昔を思い出しながらそうつぶやいた。だが田中はいまいちしっくり来ない。
「そうなんですか。私高校テニス部でしたけどそこまで怖いって感じはしませんでしたね。まあ私の見てきた世界が狭かったかもですけど」
「それはお互いそうかもしれないよ田中。俺も大原部長も厳しい世界にどっぷり浸かってたからってのもある」
そう言って斎賀は2本目のタバコに火をつけた。
「ていうか、なんでそんな話になったんだっけ?」
「ああそうだった。今但野伏古に向かわせてるんですけどそこの津田とどんな関係なのか少し気になってしまいまして」
「そういうことか。そう言われると少し不安だなぁ」
休憩室に少しの間沈黙が走った。そこに和田が再び話題を吹っかけた。
「そういえば、その津田って何部だったか分かりますか?斎賀課長」
「津田か?確か剣道やってたとは言ってたぞ」
斎賀にそう言われて和田の目の色が変わっていくのを田中は感じた。
「そうですか。そりゃあ一回戦ってみたくなりますね」
和田は不敵に笑うと缶コーヒーを飲み干して休憩室を立ち去った。
「斎賀さん、剣道経験者ってああなるもんなんですか?」
「いや、多分彼だけでしょ」
伏古の店舗には1時前には到着した。駐車場に着くなり新人と思わしき社員が彼の元へ駆け寄ってきた。
「いらっしゃいませ・・・てすいません」
新人のネームプレートには「有馬」と書かれていた。
「えっと、中古車の撮影でしたっけ?」
「うん、話は聞いてる?」
有馬はどこかしどろしている様子だ。新人である以上無理もない。すると彼の背後から誰かが近づいてくるのが見えた。
「有馬!中古車部の人来るから鍵用意しとけって言ったべ!」
「す、すいません」
駆け寄ってきたのは津田だった。彼はどこか切羽詰まっている様子だ。
「ああ但野、車はそこに停めてるから頼むわ」
但野は彼が指さした方を見た。そこにはイグニスとハスラーが停められていたが肝心のアウトランダーだけが無かった。但野はショールームへ戻ろうとする津田を呼び止めた。
「津田、下取りしたアウトランダーは?」
津田は面倒くさそうに返した。
「それなら今洗車場で洗ってるから。終わったらそっち動かしとくよう言ってるから!もういいか?」
津田の気迫に但野は「ああ」としか返せなかった。
「あと有馬、暇だったらこいつの撮影手伝ってやって。少しは車の事勉強しとけ」
「は、はい、わかりました」
すると津田は彼の返事を最後まで聞かずショールームへ戻っていった。
「すいません、なんか商談あるらしくて」
「ああ、そういうことか」
だが但野は見抜いていた。彼自身元々こういった性格だと。
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