第3話 スキル《転世者》

『本当に申し訳ないと思っています。しかし私が手を下さずとも、いずれ蒼氓喰蛇そうぼうくうだはあなたの世界へと渡り、すべてを喰らい尽くすことでしょう。ゆえにこれしか方法が無かったのです』


 推しに殺されるなぞ本望ではないか、一生モノの自慢である。


 ……一生終わったけど。


「話はわかったよ。それで……俺はこれからどうすればいいのかな?」


『流石は《テンセイシャ》です。話が早い』


 またも褒められる。

 嬉しい。


『あなたにはこれから数多の世界を渡り、私のもとへと辿り着き、この石化を解いてほしいのです』


 推しの救出作戦か……これは燃えるし萌える。

 お安い御用だ。


『あわよくば、旅の途中で蒼氓喰蛇を倒すないし封印してくださっても構いません』


 こちらは一気にハードルが上がったように感じる。

 あのマジカルウルトラスーパーデラックス魔法少女花子ちゃんですら倒せなかったんだ、俺にそんなことできるわけがない。

 しかし――


「俺やってみるよ。君のためなら命だって投げだそう」


 ……もう命無いけど。


 これから起こる冒険の数々を夢想して自然と拳に力が入る。

 恐らくアニメで見たような困難が待っているはずだ。

 だが彼女のためであれば構わない、全身全霊で救出に向かおう。


 死んだような人生を送っていたんだ、一度や二度死ぬくらいどうってことないさ。


『よろしい。それでは……私の最後の力を振り絞ってあなたに力を授けます』


 すると、俺のいる不可思議空間が白く明滅し始めた。

 地鳴りが起こっているようにも感じる。


『スキル《転世者てんせいしゃ》、この力で世界を渡り歩き――』


 ――私を助けて


 最後の言葉は“フラメティ”ではなく、どこか“花子ちゃん”を感じるような儚い声色だった。

 その言葉を最後に、眩い光で視界が奪われる。

 それはテレビ画面で見た、目の痛くなるようなものではなく優しく全身を包み込むような慈愛の光であった。


 指の先から分解され、自分が生まれ変わっていくのを感じる。

 新たな力を携えて、俺は生まれ変わる。


 目的はただ一つ、花子ちゃんを救い出す。

 それだけだ。

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2025年12月17日 20:15

推しに殺された男の異世界冒険譚〜n番目の世界で逢いましょう〜 詩川 @nin1732

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