番外編2: 海道の思い

 いつも影の薄い(薄いように動いている)海道にしては、珍しい質問をしていると山内は思った。

「イメチェンがしたいんだよ」

 はあ、と山内は言った。

 彼らは屋上でふたり並んでサンドイッチを食べていた。空は突き抜けるほどに青く澄み渡っている。心地よい風が吹き、向かいのビルでは昼時でも忙しなく働く人がいた。

「アドバイスをくれ」

「どうして?」

「いや、理由は言えんのだが」

「ほお? すればいいんじゃない?」

「そこは理由を聞くだろ。それにそれはアドバイスではない」

「好きな人がいるとかでオシャレしたいんだったら、まずその性格を矯正すべきだわ」

「そうかもしらん。お前に言われたくないが」

「一言多いんだよ」

 このような性格であり、一言多い海道は、しかし自分のそのバカみたいなところが案外気に入っているらしい。独り身で生涯伴侶を作る気がないと言っていた海道が、しかし今回は見た目作りにやる気になっている。それがどうもおかしすぎて、山内の頭は混乱していた。

「沢江が好きなんだよ」

 サンドイッチをもぐもぐとさせながら、海道はいった。

「なに突然。そうだったの?」

 海道の突然の告白にビビる山内。

「そうだ。もはや隠す必要もあるまいと今思ったのだ」

「へ、へえ」

 ふたりの後ろを、医事課の制服を着た女子が通り過ぎた。

 山内は海道をじっとみる。海道は思ったよりも悩んでいるようだった。そういう顔をしていた。

「じゃあ、まあ、協力してあげなくもないけど...」山内はため息をつく。「海道、人には向き不向きがあるのよ。好き嫌いがあるようにね。それはいつも同時に存在しているの。海道もその年になればもうわかるでしょう? その分別をつけなきゃ」

「なんで説教されてんだ俺」

「あなたじゃないの。もちろんあなたもそうなんだけど、沢江ちゃん自身が、分別がついてないのよ。人のそういうところを見分けながら恋愛しろって言ってんの」

「わかりづれえよ。つまり俺の人の見る目がないってことか?」

「まあね。沢江ちゃんを落とすには彼女自身に恋愛とは何かという概念を植え込まなきゃいけない。それくらい彼女は自分の恋愛感情がわかっていないのよ」

「落とす行為自体にピンとこないタイプということか」

「そう。好きの観点がズレる可能性がある。そしてそれは付き合い続けることに大きな歪みになるのよ」

「分別というのは?」

「分別っていうのは、恋愛の落とすことと、付き合っていくことを分けて戦略的に考えてって意味も含んでる。私はあなたが沢江ちゃんを落としたいなら全然協力するけど、その後はちょっとわからないよ。保証できないよって話」

 横内と沢江はどうだろう、と山内は考える。きっと彼らも向き不向きを考えれば向いていないのかもしれないなと思う。でも誰であっても、関係性の最後を見なければわからないことでもあるのだ。

「でも、だからこそ、チャレンジが必要なのかもね」

 山内はサンドイッチを噛み締めた。


「山内は好きな人いないの?」

 ぶふぉ、と山内は吹いた。

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