第7話 1日目

 片倉と奥津が話している。

 何について話しているかというと、同僚である沢江の最近の動向であった。片倉は医療事務であり、奥津は看護師である。そろそろ沢江も勤めて3年であるが、いまだ心配は残る。ナースステーションでは、彼女たちによる後輩談話も常日頃に行われているのである。

「沢江ちゃんさあ」と奥津が切り出す。「最近どことなく華やかになった雰囲気ない?」

「さあ? そうなの?」

「うん。フローラルな香りがする。ひっそりとシャンプーを変えたのよ、彼女」

「別によくあることじゃない?」

 それ、特別なこと? と片倉は聞く。話題にするにはどうでもよく、ニッチすぎるのではないかと。

「いやいや、沢江ちゃんの性格を考えなよ。彼女、そういう女々しいことあまりしないじゃない? お菓子くらい?」

「まあそうね。なんか心の変化があったってことかね」

 奥津はそこまで聞くと、横を一瞥する。そこには横内が資料を眺めていた。

「暑いわよねえ」と奥津が言う。

「あー...、暑いね」

 片倉はそう言って、手に持っていた資料で横内をさりげなく仰いだ。横内は気づいていない。

「で、何?」と片倉は首を傾げる。

「そりゃ、そういうことよ」

「わかるけど、情報不足」

「表に出たまえ」

 片倉と奥津はナースステーションを出て、入り口のすぐ横で話し始める。

「直接の物言いは避けるけどね、沢江ちゃんさ、横内の話しかしないの」

「まじ?」

「横内さんが、横内さんがって」

「いつも無口じゃん」

「私に対しては饒舌よ」

 奥津は自信満々に言った。

「まるで横内日記よ。今日の横内さんは師長に怒られてちょっと凹んでいた。どんなお菓子が今の彼に似合うのだろう、とか」

「イメージなさすぎるわ...」

「でしょう。別に適当にあげたらいいじゃないって言うと、そこまでの関係ではないし、っていうの」

「なにそれ、面白い」

「だから私言ってやったの、ずっとそれだといつか痛い目見るよって」

「チャンスだからね」

「そうなの」

「でも、あの子、横内に話しかけたくていつもうろつくじゃない」

「最近だと、横内がナースステーションに入ってきた段階で固まってたもんね」

「かなりキてるでしょう」

「キてるわ」

 ボディブロー。確実に響いている。

「面白いよねぇ」

「面白いねぇ」

 彼女らがそう言って笑う側を、横内は横切って行った。

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