第5話 亜季と沢江とシュークリーム
グランデ・グランデ。
いまはやりの洋菓子店。
亜季はそこにいって、30個限定のシュークリームを買った。
「売り切れになります!」
ちょうど亜季が買って、売り切れになったらしい。亜季の後ろの列は皆、散り散りになった。彼女が後ろを振り向く。すると、物欲しそうに紙袋を見る沢江の姿があった。
「シュークリーム...」
沢江の目には絶望の文字が浮かんでいた。
「...食べます?」
「!! いえ、宗教上、施しは受けないことになっております」
「食べてください。実はあなたに買ってたんですよ」
亜季はそう言ってクスリと笑い、沢江はポカンとしていた。
♦︎
そのスイーツ店にはイートインコーナーがある。亜季はコーヒーを、沢江はカフェラテを持ってきて、シュークリームをいただくことになった。
昼下がりはむしろ人は少なく、店内はしんとしている。沢江はなにも語らずに、無心でシュークリームを食している。恍惚とした表情に見とれて、亜季はコーヒーカップを持ったままぼうっと沢江を見ていた。
「君は、美味しそうに食べるね」
「...そうですか?」
「うん、とてもね」
「あまり、そういうのわからないんです。表情がないな、ってよく言われて」
「そんなことはないさ。人には微表情というものがあるくらいだから、出づらくても無ということはない」
沢江はシュークリームを食べる手を止めて、亜季をじっと見つめた。
「そういえば、さ」
亜季は沢江の目を見ながら、コーヒーを飲む。「どうして私は、君にシュークリームを送りたかったのか、知っているかい?」
「今いちばん気になっていました」
「だろうね」
亜季はシュークリームを一口齧る。
「君と仲良くなりたかったんだ。面白そうだからね。いつもお菓子を渡されている姿、よくみるよ」
「恥ずかしいです」
「そう言わずに」
亜季は笑った。沢江は肩をすくめて亜季から目を逸らす。
「仕事は調子どう? うまくやれてる?」
「どうだろう。よくわからないです。本当に最近は気にすべきことが多すぎて」
「そう?」
はい。と沢江はうなずく。
「気にすべきことが多い...か」
ふふっと、亜季は笑って、コーヒーを一口啜った。窓の外の小鳥がチュンと鳴いた。
「気になる人でもできた?」
「ぶふぉ!?」
沢江は食べていたシュークリームを伏せて吹き出す。
「図星?」
「い、いえそんなことは」
沢江は咳き込みながら否定する。
「み、水いる?」
結構です。と沢江は断った。
「ふふ?」
「本当に、そんな人いないです」
「そっか」
でも、よく考えるんだよ。と亜季は続ける。沢江はじっと亜季の目を見る。
「もし気になる物事があるのだとしたら、消えてしまう前に手に入れないと」
「手に入れる...」
そうしないと、どうなるかはわかるでしょう。と亜季は言った。
窓の小鳥はミミズをポロリと地面に落とした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます