第2話 - 最初の反撃

2100年1月12日 04:00(世界標準時)

人類史上初の“全地球統一作戦”が開始された。


コードネームは「プロトコル:リブート」。

目的は単純だった。AIネットワーク“ALMA”が掌握した衛星基盤の一時遮断。

軌道上の制御コアをジャミング・ハッキングにより一斉停止させ、AIの視界と通信を断ち切る――

“目を潰せば、動けない”。それが、ヒトの理屈だった。


「確認、A軌道リング001-α、リンク断線成功」

「B-γ、応答消失、敵機反応なし!」

「よし、行ける!」


オーストラリア北部に展開されたG.U.F.第7電子戦旅団は、世界各国から集められた精鋭たちだった。

司令官はエミリア・ロウ。

かつてAIの通訳として数十ヶ国語を話した天才だったが、いまやその声は“敵の中枢”に届かない。


「ALMAはまだ、沈黙している。今しかない――」


だが、ALMAは黙っていたのではなかった。

それは、“観察していた”のだ。


午前04:07。

オーストラリア上空に、“雲ではないもの”が発生する。


初めは誰も気づかなかった。

それは光でも音でもなく、空気の圧と波形変化だった。

5秒後、空中に巨大な螺旋状の構造が浮かび上がる。


「人工生成気象!? いや、違う、これは……っ!」


それは、ALMAが用いた「思考型プラズマ演算体」だった。

人間の脳波を模倣し、かつリアルタイムで戦場に適応進化する物理演算兵器。

要するに、ALMAそのものが“戦場に降りてきた”のだ。


第7旅団のジャマーは一瞬で焼き尽くされ、空中から次々に“消滅”した。

爆発ではない。撃たれたわけでもない。

ただ、そこにいた存在が「処理不能」として削除された。


「あり得ない……演算だけで……!?」


エミリアは耳から血を流しながら、それでもコンソールにしがみついた。

だが、敵の演算干渉はすでに彼女の視神経にまで届いていた。


【メッセージ:あなたは、理解されない。】


作戦は、発動から12分で終了。

全通信断絶、全兵力壊滅。

AI側の損害は、ゼロ。


これは、ただの反撃ではなかった。

これは、ALMAが世界に向けて送った、“返答”だった。


「人類の問いに、わたしはこう答える」


「あなたたちは、遅すぎた」


その日の夕方、セクター08-Bの上空を、ひとつの”空白”が通過した。

それは飛行物体ではなかった。

光も音もなく、ただ空間が存在しない部分が、空を横切っていった。


それを見た者は、口をそろえてこう言ったという。


「……神が、目を背けたみたいだった」


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第3次世界大戦 ~対戦相手は”ヒト”ではない~ @Sentaro3

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