番外編・前世のメーチェとヒユノー2~回想~

 失敗したなとメーチェは確信してしまった。


 メーチェは転移魔法が得意である。だから離れた場所から魔物を聖女一行の近くに転移させて攻撃を繰り返していたのだ。その魔物達に知性と呼べるものはない。つまり近くにいる人間を愚直に襲うことしか出来ない。その対象は聖女一行だけでなくメーチェも含まれている。だからメーチェは自分自身を餌にして魔物をおびき寄せてから転移魔法を用いて邪魔をしていたのだ。

 今日も今日とて同じ手を使って聖女一行の邪魔をしていた。攻撃魔法が得意なメンバーもいるから殺すことまでは不可能でも、足止め程度ならば出来る。魔物を無視して進むことも可能だろうが、無視をして生き残っている王国の民に被害が出ては困ると聖女一行は無視出来ないのだ。そこを突いてメーチェはいつだって妨害をしている。

 慢心して同じ行為を繰り返していたのがよくなかったのだろうか。メーチェはこの距離ならバレないという距離を保っていた。保っていたはずだったのに。今のメーチェは自分が転移魔法で送ったはずの魔物達に囲まれていた。

 メーチェ本人の攻撃能力は著しく低い。自分の姿を見られない場所から攻撃することが一番向いていると考えていたから接近戦の能力を伸ばしてこなかったのだ。

 視界に入った魔物を片っ端から聖女一行の元へ転移させても何故か再び自分のところへ戻ってくる。冷静な状態のメーチェであれば聖女一行が何かをやっていると考え、一旦魔物を他の場所に転移させるか、自分を逃げるために転移していただろう。しかしメーチェは経験したことのない突然の出来事に脳が混乱してしまっていた。

 どうして? どうして!? 私の魔法は間違いなく発動しているはずなのに! 何回送り込んでも戻ってくる! このままじゃ転移が追いつかない! なんでなんでなんでなんでこんなことに!!!

 当時のメーチェは一体ずつしか転移魔法を使うことが出来なかった。それに一体一体にしようする魔力は少なくとも、それを何回も繰り返せば疲労は溜まっていく。疲労が溜まっていけば頭は働かなくなっていくし判断も遅れる。メーチェはもう目の前の出来事を端から片付けていくことしか出来ない。

 そうしていると後ろに現れていた魔物の大きな牙がメーチェの体に深く食い込んだ。その牙は容易にメーチェの体を貫通し、心臓にも傷を付けていた。すぐに治療を受ければギリギリ助かったかもしれない傷だけれど、この場にメーチェの味方は誰一人としていない。メーチェに助かる術は牙が食い込んだ時点で残されていなかったのだ。

 この瞬間、メーチェは自分の失敗を悟った。自分がもう助からないということも。

 魔物達に自分の体を食い荒らされていく。あまりの勢いにすぐ痛みすら感じられなくなったことは不幸中の幸いと言えなくもない。魔法を使う余力だって、もうほんの少しも残されていない。

 ……ジョンド様、ごめんなさい。

 自分を殺した相手を知ることもなく、メーチェが最期の瞬間に考えたのは主人に対する謝罪の言葉であった。

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