番外編・前世のメーチェとヒユノー3~回想~

 ヒユノーはようやく成功したと自分の胸を撫で下ろしていた。


 定期的に魔物の気配すらなかった場所から魔物が現れて、急に戦闘が始まるということを何回も繰り返していた。

 これでは全員気を抜ける瞬間というものが存在出来ない。ただでさえ魔王を止めるために日々進軍しているのだ。休憩出来るときにしっかりしておきたい。それなのに、そんな自分達を嘲笑うかのように魔物達は出現していた。

 一体一体は強くなくとも、放っておくと民達に被害が出る。それを良しと出来るメンバーは最初からこのパーティーにいないのだ。だからどんなタイミングでも毎回魔物は倒していた。

 その対策方法をヒユノーは常に考えていた。

 この突然現れる魔物への対策があれば、皆の心労は一気に減る。せめて魔王と直接対決をするタイミングまでにはこの問題を解決したい。戦闘中に突然魔物が現れては陣形だって崩れるし、魔王は他に意識を割いておいて勝てるような相手じゃないのだ。

 そしてヒユノーは得意な回復魔法を応用して相手の魔法を跳ね返す魔法を作り出したのである。回復魔法というのは呪いを取り除くこともある。だから相手の魔法を一時的に呪いに似たものに定義して、取り除く行為を跳ね返すことに定義したのだ。

 とはいえ、これが使用可能なのは大量の魔力を使っていない魔法に限る。つまり直接的な攻撃ではない、今回の転移魔法に対してのみ威力を発揮するのだ。

 結果として、ヒユノーが生み出したこの魔法は成功した。

 突然魔物が出現した瞬間に、魔物の足下を狙って跳ね返す魔法を使用したのである。そうすれば魔物の転移自体を跳ね返して元々いた場所に戻すことが出来る。ヒユノーが魔法を発動する度に現れた魔物は消えていく。それをただひたすらに魔物が出現しなくなるまで繰り返すのだ。言ってしまえばヒユノーと姿を現さない敵との根比べだと言える。

 ヒユノーがこの作戦を成功させることが出来たのは仲間から魔力のサポートがあったことも大きいだろう。ヒユノーが一人だったならば、きっと早々に魔力が尽きて根負けしていた。これは、それほどまでに敵の魔力量が多かったことも指しているのだが。

 そうして急に魔物が出現しなくなったことでヒユノーを筆頭とした聖女一行はようやく落ち着けると息を吐き出したのだ。

 相手を撤退に追い込むどころか殺してしまったことなんて知らないまま。


 メーチェは前世の自分が死ぬきっかけを作った原因がヒユノーであることは知らず、ヒユノーも前世で何回も魔物を使って襲ってきていたのはメーチェだということは知らないまま今世を生きていく。

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転生聖女らしいですが、記憶がないまま前世の魔王と再会しました からから @kirinomi

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