第34話・初めての告白

 言った。言ってしまった。

 後半はもう勢い任せだったけれど、私は間違いなくジョンド様に告白をした。人生で初めての恋で、人生で初めての告白。こんなにも自分がどうにかなってしまいそうな衝動を私は知らない。自分の意思だけでは制御しきれない感情。相手が受け入れてくれるのかそれとも拒否されるのかでまた全てが変わってしまいそうな感情。

 そこまで言ってようやく、私は自分の体勢がとんでもないことに気付いてしまった。告白を抱きつきながらやるのってどうなんだ? 恥ずかしくて顔を見られながらなんて無理だと思っての行動だったけれど、これはこれでかなり大胆な気もしてきた。

 とはいえ今更離れるのも無理だ。その気持ちの影響か、私は無意識の間に抱きつく力を強くしていた。

「……ルティア」

 名前を呼ばれると同時にポンと頭に手を置かれた。どこかぎこちない動きで頭を撫でられる。その動きだけでジョンド様はこの行為に慣れていないことが分かって勝手に嬉しくなってしまう。だってそれは私が特別扱いされているような気持ちになれるから。

「その、俺のことを好きだと言ってくれるのは嬉しいが、突然のことで混乱しているといった方が正しい」

 ジョンド様の言葉がグサリと私の胸に刺さる。私でさえこの告白は全く予定になかったことだ。好きだと自覚はしていてもメーチェの騒動がなければ、まだ言葉にすることは想定していなかった。ジョンド様が混乱するのは当然のことである。

 ただ、その言い方は告白を断られることが頭を過ってしまう。私に恋愛の経験がなくともそれぐらいは知っているのだ。心臓が嫌な音を立てて、背中に嫌な汗が流れていくのを感じる。

「だから考える時間と、もっと君のことを知る時間がほしい」

「えっ?」

 私が驚いてつい顔を上げるとジョンド様がしっかりと私を見ていた。いつの間に布が外れたのかジョンド様のお顔が全てさらされている。私がジョンド様に惹かれた一番の理由は私をちゃんとルティアとして見てくれたことだが、ジョンド様のお顔にも弱いのだ。艶やかな黒い髪の隙間からアメジストのような瞳が私を真っ直ぐに見つめていて、それだけでも胸が高鳴る。

 私の顔に更に熱が集まって、何か返事をしなくちゃと思っても口が開閉を繰り返すばかりだ。そんな私の姿にジョンド様が軽く首を傾げるとジョンド様の髪がパラリと少しだけ私の顔にかかる。私の脳内はもう沸騰寸前だ。好きな人とこんなに近い距離で目が合って、冷静でいられるはずがない。

「ルティアのことは人として好ましく思っているからこそ、もっと君のことを知ってから返事がしたい。そうでなければ俺は自信を持って返事をすることが出来ないんだ。もちろんこの間にルティアが俺に対してやっぱり好きじゃないとなったら告白を取り下げてくれて構わない」

 ジョンド様が言っていることを私は理解出来ているのか、理解出来ていないのかそれすらも茹だった頭では判断出来ない。だが、少なくとも告白してすぐ断られているわけではないことだけはどうにか分かった。

 だから私は必死で了承の意を伝えるために首を縦に振る。緊張のせいか上手く言葉を発せない私に出来ることは首を振ることだけだった。

「良かった……」

 心の底から安心したような声を出したジョンド様の笑顔が見えた。その嬉しそうな顔に頭の中が沸騰していた私の気は完全に抜けてしまったらしい。自分でも信じられないほど唐突に糸が切れたみたいに私の意識は落ちた。

 どこか遠くでメーチェと向き合っていたときにも聞けなかったジョンド様の焦り声が聞こえた気がした。

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