第30話・告白
ここで時は現在に戻る。
「もう! もういいです! こうなったら全部言っちゃいます! どうせ黙ってたってジョンド様には何も伝わらないことは前世で嫌というほど知ってるんですから!」
メーチェは真っ直ぐ私達を見てきた。私だけではなく、ジョンド様だけでもなく、私達二人を見ていた。
「私は! ジョンド様に仕えていたときからず~~~~~~っとジョンド様のことが好きだったんです~! 生まれ変わった今でもジョンド様を愛しているんです!」
「なっ……」
初耳だと言わんばかりにジョンド様が目を見開く。
私には二人の過去は全く分からない。魔王だった時のジョンド様に仕えていたということはメーチェもそれなりに悪いことはやっていたのだろう。しかし、そんなこと今はどうだっていい。問題はメーチェもジョンド様のことが好きだということだ。しかも私がジョンド様に出会うずっと前から。
……コーデリアとしての時間を含めたら、もしかしたらそこまで差はないのかもしれないが、記憶がなくルティアとして生きている以上そこを含めるのはフェアじゃない。
「そ、そんな素振り今まで一度も……」
「してましたよ~! ジョンド様の夢が叶うまでは言葉にしないでおこうと思っていただけで、ずっと態度には出してました! 正直ジョンド様以外の仲間達はほとんど気付いてました~」
見上げるようにジョンド様の様子を窺うとメーチェの言葉を処理しきれていないのか目を丸くしていた。過去のメーチェが何をやっていたかは知らなくとも、ジョンド様が好意に気付かなかった方だというのは理解できた。……私も何となくそんな気はしていたから。
「だからジョンド様と再会出来て嬉しかったのに、ルティア様がジョンド様のことを好きとか言うからもう訳が分からなくなっちゃったんですよ~!?」
「そ、そこは言わなくてもいいでしょ!?」
「いえ、言います~。だって私は二人の仲を引き裂こうとしたんですから」
そこでメーチェは手を動かして魔法を使うとヒユノーの物である万年筆を自分の手の中に出現させた。またどこかから万年筆が現れるかもしれない。この一瞬でジョンド様が私をかばうように前に出てくれて、その行動に私はこんな状況にも関わらず嬉しいと感じてしまった。
「……ほら、そうやってかばう程度にはジョンド様はルティア様のことを守ろうとするんですよ」
ぽつりとどこか投げやりなようにも聞こえる声色でメーチェは言葉を続ける。
「だからジョンド様が拾っていた万年筆でルティア様が傷付けば、二人は距離を取るかなと思ったんです~。何よりルティア様が傷付いたらヒユノーさんがそんなこと絶対にさせないと思って~」
「ルティアに毒が入ることは何とも思わなかったのか」
私をかばってくれたヒユノーは最低限の解毒を終わらせてからは疲れたようで眠りに着いている。隙を見て顔色を確認したときはかなり血色がよくなっていたから大丈夫だと信じている。
「ルティア様のことはヒユノーさんなら何が何でも助けますよ~。それにこの毒は体が引きちぎられそうなくらい苦しいけど、命に別状はないってあらかじめ実践している場面に立ち会ったことありますから。もちろん家に帰ればヒユノーさんは解毒薬も用意してますし~」
立ち会ったことあると言った瞬間にメーチェが私だけを見てきた気がした。どこか過去を思い出すような、遠い目をしながら。
「でも、失敗しちゃいました~」
「……メーチェ」
「はい?」
「もし成功してたらどうしてたの」
「ヒユノーさんのルティア様に対する過保護がもっとガチガチになって、そのタイミングで私はルティア様のメイドを辞めて、ジョンド様にまたお仕えするつもりでした~。だって私がいなくなればルティア様は家から抜け出せないからもうジョンド様には会えませんよね?」
「そう」
メーチェの考えを聞いて私は足を前に踏み出してジョンド様より前に出た。
「待て!」
ジョンド様が私の肩を掴んで止めようとしてくれる。その優しさが嬉しい。
「……メーチェはやると決めたら手は抜かないヤツだった」
だから近寄るのは危険だとジョンド様は忠告してくれている。前世の主人からもこう言われるなんてメーチェは一体どんな人だったのだろうか。
私が想像しているよりずっと残虐な人だったのかな。メーチェから話を聞けることがあれば聞いてみたいような、私は痛い話が苦手だから頼んでも話してくれないような気もする。前世の話は物語として聞くことは楽しくて面白くて好きだと言っても無理かな。
でも。私は嬉しさを覚えながらもジョンド様の手を優しく取って私の肩から外した。
「忠告ありがとうございます。でも私は今のメーチェしか知らないんです。過去のメーチェよりも私が一緒に過ごしてきた今のメーチェを信じさせてください」
私はメーチェに向かって歩を進める。
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