第27話・好きな人

「いえ?」

「……えっ?」

「コーデリアはコーデリアだし、ルティア様はルティア様じゃないですか~」

 あまりにもアッサリとした言い方に私は口を半開きにしてメーチェを見た。私の欲しかった答えのはずなのに、ここまでサラッとなんでもないことみたいに言ってくれるとは思ってもみなかったのだから。

「コーデリアの記憶があるなら、まあ、話は別ですけど~。ここまで一緒にいたら本当に記憶があるかないかぐらいは分かりますからね~。というかコーデリアとして見てたらここまで仕えてません。多分殺してたと思いますよ~」

「じゃ、じゃあ、なんで、今になって攻撃してきたの?」

 私をコーデリアとして見ていたのなら立ち直れないくらい悲しいけれど、攻撃してきた理由は分かる。前世で魔王をやっていたジョンド様に仕えていたのなら私を恨むのは当然といえば当然だ。今世でもジョンド様に出会えたから私という主人を……見捨てるのは一応理解出来る。

 でもルティアとして見てくれていたのなら攻撃する意味が分からない。ヒユノーがかばってくれなかったら、あの万年筆は間違いなく私に刺さっていたのだから。例え私の従者を辞めてジョンド様の元に行くとしても攻撃までする理由がない。そう考えてしまうくらいにはずっと一緒に過ごしてきたメーチェのことをまだ信じていたかった。

「ルティア様が……」

「わ、私が?」

 メーチェが明確に私を睨んできた。この、今にも足から力が抜けて倒れてしまいそうなほどの圧を人は殺気と呼ぶのだろうか。ジョンド様が私の肩を支えてくれていなかったら間違いなく倒れていたと思う。

 そのジョンド様は私達の会話に口を挟むことなく、私の隣にいてくれた。きっとジョンド様がいなければ私はメーチェに襲われて無残な状態になっていたことだろう。

「ルティア様がジョンド様のことを好きとか言うからですよ!」

「へぁっ!?」

 ジョンド様の視線が私の方に向いた気がするが、私にはそれが確認出来ない。

 さっきまでとは違う意味で震えが止まらない。背中に変な汗が流れている気がするし、一気に体温が上がったような感覚もある。

「ちょ、ちょっと待って。ね、メーチェ?」

「待ちません!」

 メーチェは地団駄でも踏みそうな勢いで私に言葉をぶつけてくる。どうやら彼女の一度開いてしまった口は閉じないらしい。ジョンド様本人がいるこの状況では心の底から止まってほしいのだが。

「わ、わた、私の方がルティア様よりずっと前からジョンド様のことが好きだったんですから~!」

「うえっ!?」

「…………え」

 この言葉に驚いたのは私だけではなかった。隣にいるジョンド様からの驚きの声が漏れていた。

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