第26話・疑いたくない

 それが私のルティアじゃなくコーデリアとしてずっと見ていたことを黙っていられると嫌な理由だった。

 ディートのことは今思い出しても寒気がする。あの後、私はメーチェに他の部屋に連れて行かれて姉様と一緒にいたから何があったか詳しくは知らない。でも、ヒユノーが婚約は解消されましたと言ってきて、メーチェも心配はいりませんと言っていたから二人が全てを終わらせてくれたのだろう。何故なら私もあの日以降ディートとは一度も会っていないのだから。

 ディートは思い出したくない人だけれど、あの日のメーチェは私にとって忘れられない。メーチェとはそれなりに上手くやっていると思っていたが、どこか仕事として私に接していると思っていたのだ。だって私がもし従者だったら私みたいな人間に本気で仕えたいとは思わないから。

 でもメーチェは本気で私のことを心配してくれていた。そうでなければ震えた手で私を抱き締めてはくれない。実は結構恋バナが好きで私がディートと出会う前から頻繁に私に対して恋はしないのかと言ってきていたメーチェが恋愛の話を一切しなくなるわけがない。メーチェ本人が恋をしないのは不思議だったけれど。

 ああ、そうだ。私は本気でメーチェを信じていた。私を主人だと思ってくれているとメーチェを信じていたのだ。

 だから私は怖い。ルティアじゃなくてコーデリアとして見られ続けていたかもしれないことと、メーチェは私を別に主人として見ていなかったかもしれないことの両方が怖くてしょうがない。

 勝手に体が震える。ディートだけではなく、メーチェにまでそう思われていたと確定したら私はもう誰かと親しくなるのが恐ろしい。どれだけ普通に接してくれても私の前世がコーデリアであることを知っているんじゃないかって疑念が頭から離れなくなる。

 そんな風に人を疑い続けるなんてことしたくないのに。

「ルティア、大丈夫だ」

 震えている私を落ち着かせるためかジョンド様が私の肩に手を置いてくれた。その置き方はとても優しい。ディートとは全く違う。肩に指が食い込むことなんてない。優しくて、私を支えてくれるような力強さを感じた。

 そう。そうだ。ジョンド様だけは違った。私の前世がコーデリアだと見抜いた上で、すぐに訂正してルティアと呼んでくれた。それがどうしてなのかは私には分からない。コーデリアを完全に過去の人間として見ているのか、他に理由があるのか。答えはジョンド様しか知らないし今は聞けるような状況でもない。

 でも、私をちゃんと私として見てくれている存在が隣にいるのなら、私はまだどうにか立っていられる。私は地面をしっかり踏みしめると真正面からメーチェを見据えた。

「メーチェはずっと私のことをコーデリアとして見てたの?」

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