第22話・ルティアの過去
今よりもまだ幼かった頃の私には婚約者がいた。
当時の私は婚約者がいると聞かされて、恋愛なんてどういう感情かよく分からないのに楽しみで胸を高鳴らせていたことを覚えている。だって姉様の婚約者が妹の私にも優しい方で、姉様がいつだって幸せそうに笑っていたから。
だから幼い時の私にとって「婚約者」という存在は素敵なものだと心から信じて疑わなかったのだ。
その婚約者の名前は「ディート」と言った。
ディートは初めて会ったその瞬間から私を大切に扱ってくれていた。跪いて手の甲に口付けるなどキザな部分はあったが、私にとっては新鮮で面白かったのも事実である。いつだって私の意見を聞いてくれて、いつもと違う髪型をするとすぐに褒めてくれて、私がディートに惹かれるのも時間の問題だった。
とある場所で出会った相手からコーデリアと呼ばれ続けていた時期に普通にルティアとして接してくれる人に新しく出会えて浮かれていたのもあるだろう。ヒユノーもメーチェもディートについて特に悪く言わなかったのも浮かれた原因ではあると思う。二人ともが認める人なら良い人なのだと私は思い込んでいた。
「ルティアに会えるのが生きる楽しみさ」
「おや、髪切ったんだね。その姿も新鮮でかわいいよ」
「またヒユノーさんに怒られたんだ。元気なのはルティアの長所なのにそこを閉じ込めようとするなんて、いくら教育係とはいえもう少しルティアを尊重してくれたらいいのにね」
私にとって耳に心地の良い言葉をずっとくれていた。ちゃんと私の瞳を見て褒め続けてくれていた。婚約者は素敵な存在だと思い込んでいて、褒め続けてくれるディートは私にとって理想の相手といっても過言ではなかったのである。
それはきっと恋愛感情と呼べるものではなく、自分を好いてくれる相手に好印象を抱くのと同じだった気はしているけれど。だってその証拠にディートと一緒にいると楽しいけれど、胸は高鳴らなかったし苦しくもならなかった。私が感じていた楽しさの種類はメーチェと過ごすときとあまり変わらなかったのだから。
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