第14話・主人のためならば
もう土下座をしてでも姉様とヒユノーに頼み込むしかないのか。……姉様はともかく、ヒユノーはそんなことでは許可を出してくれないだろう。何故なら昔の私が謝って落ち込んでいる振りをしている時に逃げ出したことがあるからだ。さすがに今でもその手法は使わないが、ヒユノーが警戒することは目に見えている。
「…………ルティア様」
「……なに。私は今抜け道を探すのに必死なんだけど」
「そんなに裏路地で出会った方のことを好きになってしまったんですか?」
「うん」
「今までのルティア様だったらバレなければ大丈夫の精神で私に相談することもなく裏路地に通っていたと思うのですが」
「メーチェは私のことそんなヤツだと思ってたの?」
「違いました?」
メーチェは真実を言っているだけだと言いたげな瞳で私を見つめてきた。そしてそれは確かに事実だとは思う。だって最初に裏路地に入っていったときの私は姉様に対する申し訳なさはあっても、バレなければいいと考えていたのだ。
でも、ジョンド様が、一瞬だけ見ることの出来たジョンド様の瞳がとても真っ直ぐだったから。前世が魔王だったのは本当だろうけれど、真っ直ぐな瞳で私を見てくれたから。この人に恥じるような生き方は出来ないとそう思ってしまったのだ。少なくとも自分の心に後ろめたさが生まれている状態で会うことは出来ない。
「ううん、違わない。違わなかったけど、私はあの方に顔向け出来ない方法では会えないなって思ったの」
「……恋をしたら人は変わるって本当だったんですね~」
「何が言いたいの?」
「恋をしたルティア様に免じて私もお二人に許可をもらう方法を考えてあげます」
「いいの!?」
願ってもないメーチェの言葉に私はつい勢いで彼女の手を握った。いつも私達のために働いてくれているメーチェの手を。
「でも! 条件があります~」
「条件……?」
「私をその、ルティア様の思い人と二人で会わせてください」
「え、な、なんで」
「ルティア様のことは信じていますが、お相手の方が本当にルティア様を騙していないか分かりませんから~。私がルティア様のメイドだという事実を隠して会って信じてもいい方なのか判断してから協力させてください~」
二人で会いたいと言われて一瞬緊張したが、確かにそういう理由なら納得出来る。私が恋愛に積極的じゃなかったからやる必要がなかっただけで、メーチェの仕事の一つに私の恋愛相手が信用出来るか見定めることが増えていたことを今思い出した。
メーチェは私に対してコーデリアと呼んだことはなく、他の皆とも前世の話などはしていなかった。ジョンド様と会ったところで魔王だからという理由で敵対することは有り得ないだろう。
でも、でも……!
私は握っていたメーチェの手を少しだけ強く握り直した。
「会うのはいいけど、その……す、好きになったりしないでね?」
「どのような方でも好きになったりしませんよ~」
メーチェは驚きからか一瞬だけ目を見開いたかと思うと、こう答えてくれた。その答えに私は心の底から安堵する。さすがにメーチェとライバルになんてなりたくない。……なんか負けそうな気もするし。
「じゃあ、彼と会った場所を教えるけど、本当に好きになったりこらしめたりしないでね」
「もう~信じてください~」
「信じてはいるよ!」
メーチェにジョンド様の名前と出会った場所を教えると私に出来ることは今後が上手くいくよう祈るだけだった。
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