第13話・メーチェとの相談
私が家に帰って最初にやることはメーチェに相談することだ。
私一人だけの発想だと姉様もヒユノーも絶対に説得なんて出来ない。そもそも私がヒユノーに口で勝てるような人間だったら過保護に文句を言ったり家を飛び出すことなんてしていない。真正面から説得をして一人で家を出る時間をつかみ取っていたはずなのだ。
だから私は丁度休憩時間だったメーチェと共に作戦会議をすることにした。
「メーチェに相談があります」
「何ですか~」
「姉様とヒユノーから私が裏路地に入ってもいいと許可をもらうための作戦を一緒に考えてください!」
「……え~」
私がそう言ってメーチェに頭を下げると分かりやすく面倒くさそうな声を出された。メーチェがこういう人間だと分かって私はずっと側に置いているけど、一応の雇い主に対してこの態度を取れるのはすごいと思っている。
メーチェはメイドとしての仕事はちゃんとこなす。私が本当に悩んでいたり落ち込んでいるときは深く踏み込まずに側で支えてくれる。しかしそれはそれとして、頭を使うことを頼まれると面倒だという感情を隠さないのだ。
まあ、そこまで分かりやすいと私も付き合いやすいからいいのだけれど。
「それってルティア様からの命令ですか?」
「うん。命令」
「じゃあしょうがないですね~」
これは私達の間でよく行われるやり取りの一つだったりする。メーチェが面倒だと感じることを頼む時には命令だと言わないと断られる。メーチェとしても本気でやりたくないと思っているわけではなく、自分のやる気スイッチを入れるためのルーティーンの一つなのだと私は思っていた。
「命令だから考えますけど、そもそもなんでルティア様は裏路地に行きたいんですか? お二人から止められていましたよね~」
「そ、それは……」
やっぱりそこは聞くよね!?
どうにかそこを誤魔化して突っ切れないかと思っていたけど、最初の関門であるメーチェの時点で聞かれてしまった。理由次第ではメーチェだって私の敵に回るだろう。とはいえ、下手な嘘を吐くと何故かメーチェにはすぐ見破られてしまうのだ。
こんなの、人に言ったことがないから恥ずかしいけれど、正直に言うのがメーチェをこのまま味方に付けるためには必要なことである。
「絶対に誰にも言わないでね?」
「ルティア様が言ってほしくないなら言いませんよ~」
「す、好きな人が出来たの」
「え!?」
「ちょ、声が大きいって!」
私の家は余程の大声じゃない限り外の人に声が聞こえるような壁の薄さではないが、それでも内緒の話をしているのだからドキドキはしてしまう。
「ご、ごめんなさい。え、いや、でも、本当です?」
「……こんな嘘吐かないって」
「ルルーラ様にはもう婚約者がいて自分の恋愛は自由だから一生独り身でいたいとか仰っていたルティア様が!?」
「そうだよ!」
私の昔の発言を掘り返すようなメーチェの言葉につい私の声も大きくなってしまった。ハッとしたように口を押さえたときにはもうメーチェはニヤニヤとした笑顔を浮かべて私を見ていた。
……私が頼んでいる立場だから何も言わないけど怒るよ?
「へ~恋愛に興味がないルティア様にもついに好きな方が出来たんですね~。メイド冥利に尽きます~」
「感情がこもっていない声と物珍しそうな目で見ないで!」
メーチェは一度咳払いをすると普段の柔和な笑みを浮かべている表情に戻った。
「でも、本当にルティア様に好きな人が出来たのでしたら、それと裏路地に行くことに何の関係があるんですか~」
「その、事情があって私の好きな人が裏路地から出てこれないから後ろめたさゼロで会うためには許可をもらわないといけなくて……」
「え、そこでしか会えない人とか怪しくないです?」
た、確かに。
メーチェの言っていることはもっともである。私はジョンド様と会えたことが嬉しくてそこまで考えていなかったけれど、裏路地でしか会えないなんて怪しさしかない。しかもジョンド様のことを説明出来ないから怪しさを払拭する方法が思い浮かばない!
「ルティア様、騙されてません? 私がその相手をこらしめて騙していないか聞き出してあげましょうか?」
「騙されてない! 騙されてないからこらしめるのだけはやめて!」
「う~ん、ルティア様は主人でもあるから信じたいですけど、この話だけじゃあ私はルティア様に協力出来ません。そこをどうにかしないとルルーラ様とヒユノーさんの説得なんて夢のまた夢ですよ」
「うぅっ……」
あまりにもメーチェの言う通りだ。私にはこれっぽっちも反論が思い付かない。
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