第12話・ジョンドの回想4

 ジョンドには記憶の無いルティアにはどうしても伝えることの出来なかった記憶の続きがあった。


「それじゃあ合意をもらったということで契約しましょう!」

「お前がいいならいいけどさ、さすがに契約レベルの魔力を使ったらお仲間にバレて止められるんじゃねえの」

 ジョンドは命を結ぶ契約をしたことはない。しかしそれでも相手が約束を破ったら自分も死ねるようにお互いの命を結ぶのだ。さすがに仲間に気付かれるレベルの魔力反応が出るだろう。

「私はこれでも聖女で色んな知識がありますからね。気付かれても止められる前に契約を締結させられる方法は知っていますよ」

「じゃあとっととやってくれよ」

「……はい」

 コーデリアの声が急に小さくなったことをジョンドは疑問に思った。けれど、頭上にあるコーデリアの表情は覚悟を決めているものである。何か痛みが伴う方法なのだろうか。だが、どんなに痛くともこれまでの戦闘よりはマシだろう。そうじゃないと契約を結んだところで死んでしまう。

 ジョンドがそんなことを考えているとコーデリアの顔が一気に近付いてきた。指一本まともに動かすことも出来ないジョンドに抵抗の術はなく、お互いの唇が重なった。そしてジョンドが目を見開いている間にコーデリアの舌と唾液が入ってきて口の中を攪拌される。

 遠くからコーデリアの仲間達の悲鳴が聞こえ、それと同時にコーデリアの唇が離れた。あまりにも一瞬すぎる出来事。しかしそれはジョンドとコーデリアの仲間達を混乱させるには充分すぎる一瞬だった。

 そう。契約を締結させるために生まれた魔力量の衝撃を軽く上書きしてしまうほどに。

「コーデリア様!!! 何をやっているのですか!!!」

 仲間達はコーデリアをジョンドから引き剥がす。何かを喚いている気もするが、そのどれもジョンドの耳には届かない。魔力がかき混ぜられたことによって心臓が強い音を立てていて、コーデリアと契約によって繋がれたのだと本能で分かる。

 その上、契約を締結させる前の一瞬にコーデリアが魔力を送り込んでくれたのか、最低限起き上がって動けるくらいの体力は回復していた。これならば生き延びることも可能かもしれない。いくらコーデリアがジョンドを見逃してくれたとしても動けないのでは生き延びることも出来なかったのだから。

「また会えたらゆっくりお話しましょう!」

 キスの動揺でジョンドが動けるだけの体力を取り戻したことに気付いていない仲間達によってコーデリアは一旦部屋の外まで連れていかれようとしている。その時に放ったのがこの台詞だ。コーデリアが仲間の誰かに頭を叩かれたような音が聞こえたがジョンドにはもうどうでも良かった。

 ただ、コーデリアという一人の人間のことを一生忘れられないんだろうなということだけは確信していた。

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