第11話・また会えるように

「あの、ジョンド様」

「ん?」

「今度からはここ以外のどこかで会えませんか? 実は裏路地に行くことは前から私の姉様や教育係から止められていまして……」

「止められてるのに来ちゃったんだ」

「だって! ちょっとした冒険みたいでワクワクしちゃったんです! ジョンド様に会えたのは嬉しかったですし後悔はしていませんけど、じわじわと罪悪感のようなものが……」

「うーん」

 ジョンド様が顎に手を当てて考え始める。布のせいで口元しか見えないけれど、どうやら真剣に悩んでいるみたい。

「ここだと暗くて、私としてはジョンド様ともっと街を歩いたりしてみたいのです」

「お誘いは嬉しいけど、やっぱりごめんね。俺は裏路地から出られないよ」

「ど、どうしてですか!?」

「ルティアが自分の前世がコーデリアだって知ってるってことはどこかで教えてもらったんだろ? その相手と会うかもしれないのに、街の方には行けないよ。コーデリア以外から見た俺は間違いなく王国に侵攻していた魔王だからね」

「そっ、それは……」

 ジョンド様の言葉を否定しようとして何も出てこなかった。

 私に一番近い存在であるヒユノーはコーデリアの仲間の一人で魔王であるジョンド様の元に向かった時も一緒にいたと聞いている。私への対応からしてもヒユノーはコーデリアにもそれなりに過保護ではあったのだろう。そんなヒユノーが私とジョンド様が街を歩いている場面に遭遇したら何が起こるか分かったものではない。

 良くて私を家に連れ帰る。悪ければ街中であろうとジョンド様に刃を向ける姿は想像に難くない。私はヒユノーが戦っているところを見たことはないけれど、コーデリアの仲間の一人だったのだ。ヒーラーだったとはいえ全く戦えないということはないだろう。

「だから、うん。俺とルティアが会うのは今日で最後にしよう。俺がいるとはいえ裏路地は陽が沈むと危ないからね」

 嫌だ。

 ジョンド様の言葉を聞いて私が最初に思い浮かんだことがそれだった。ジョンド様と会うのが今日で最後なんて考えられない。

 だって、だって、私はきっとコーデリアと同じでジョンド様に一目惚れをしてしまったのだから。

 今は布の下に隠れてしまっているけれど、ジョンド様のアメジストのような瞳を忘れられない。布の隙間から見える肩より長く結んでいる艶やかな黒髪を私はもっと見てみたい。優しい色で話しかけてくれるジョンド様の声をもっと聞いていたい。何より聖女コーデリアの話をしていた時に一度も私の向こうにコーデリアを見ることのなかったジョンド様ともっとお話をしていたい。

 私は自分とコーデリアがすごく似ているのか、それとも全く似ていないのかは分からない。皆が皆、一目で見抜くから少なくとも魂の色が同じなのだろうということは分かる。

 そんな私がジョンド様に一目惚れしたのは確かにコーデリアの魂の力もあるのかもしれない。でも私はコーデリアとは違ってちゃんと話した上でジョンド様のことが好きだと言える。コーデリアを知っていてなお、ルティアとして接してくれるジョンド様を好きになったのだ。

 コーデリアは無理だったことも、今のルティアである私なら叶えられる可能性があるのだ。ジョンド様と結ばれる未来をつかみ取るために会う日を今日で最後にすることなんて出来るわけがなかった。

「じゃ、じゃあ私、説得してきます!」

「説得?」

「はい! 私が裏路地に入ってもいいと許可をもらえたらまたここでジョンド様と会えますよね!?」

「会えるけど……俺の名前を出さずに説得とか出来るの?」

「が、頑張ります!」

 本音を言えば自信はまるでない。生まれてこの方、説得というものをやったことのない私に出来るのかという不安はつきまとう。でも、やらないと私がスッキリした気持ちでジョンド様に会えない。ジョンド様だって私がこの話をしてしまった以上、私が問題を解決しないときっと会ってくれないだろう。だったら頑張るしかないのだ。

「うん、じゃあ頑張って。俺はここから応援しているから」

「ありがとうございます!」

 私は勢いよく立ち上がってジョンド様に別れを告げると裏路地から家へと走って帰った。

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