第8話・ジョンドの回想2

 命を結んだ契約とは、契約における対象者の命を繋げることで締結される。

 お互いが相手に対して何らかの制約を受けさせ、それを一人でも破ってしまった場合、対象者全員が死亡するといった契約だ。命を結ぶのだから相手に対する最上級の信頼の手段として魔力を多く持つ者が使っている。


 それをコーデリアはジョンドに対して使うと言っている。信頼関係がある者同士でしか成立が難しい契約をしたいと言ってきているのだ。コーデリアとジョンドは今の今まで対立していて信頼関係なんてものは微塵も存在していないのに。

「お前はなんで自分の命と結んでまで俺を殺したくないんだよ。殺す理由は山ほどあっても生かす理由なんてねえだろ」

 だからジョンドはコーデリアに聞いた。

 国を侵攻していた魔王であるジョンドを、その国を護るために日々奮闘していたコーデリアが生かす理由とは何なのか。だってもし仮にジョンドが逆の立場であれば間違いなくコーデリアを殺している。今まで自分達の邪魔をしてきたヤツを殺して何の憂いもなく自分の目的を達成する。

 ジョンドの脳内に王国を制覇した後の願いなんてものはないけれど、自分を疎んでいた人間は皆殺しにしようとは考えていた。それ自体は前から、コーデリアに対しても宣言している。そんな危険分子を契約で縛ってまで生かしたい理由がジョンドの頭には思い浮かばなかった。

 ジョンドの顔を覗き込んでいるコーデリアは瞳を細めて、口角を上げて笑った。ずっと敵対しかしていなかったから聖女も笑うことがあるのかとジョンドは思った。

「笑わないで聞いてもらえます?」

「笑う気力も残ってねえよ」

「じゃあ大丈夫ですかね。えーっと」

 一旦言葉を区切ってコーデリアは視線を左右に泳がせていた。どこか恥ずかしがっているように見えたが、そんなわけはないとジョンドは思い直す。こんな状況で羞恥心が生まれるわけがないからだ。

「えへへ。実は私は初めて会ったときから一目惚れしていたんです」

「…………誰に」

 ジョンドは自分の体に冷や汗が流れた気がした。脳が会話の流れを理解することを拒んでいる。それでも答えを訊かずにはいられなくて、つい言葉にしてしまった。

「魔王ジョンド、あなたですよ」

「………………………………」

 開いた口が塞がらないとはこういうことを言うのだろうか。ジョンドは訳も分からずコーデリアを見上げることしか出来ない。

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