第5話・メーチェの気遣い
「お帰りなさいませ、ルティア様~」
「……ただいま、メーチェ」
「あれ~? どうしました? 今日は元気ないですね~」
「ちょっとヒユノーとね」
「そろそろ本気でヒユノーさんがぶち切れるから家を抜け出す回数減らした方がいいって言ったじゃないですか~」
「ははは」
メーチェは私専属のメイドである。アメトリンみたいに色が混ざっている瞳は私のお気に入りでもあった。
そして私が家を飛び出す時に手助けしてもらっている一番の相手だと言ってもいい。
この世に生まれた人間は皆魔力を保有しており、その量の多さによって使える魔法の種類が決まるのだ。とはいえ、魔法を使えるほど魔力を持っている人は多くはない。大抵の人は魔力を帯びている程度で魔法なんて使えないのだ。そして私も『大抵の人』の一員で魔力はあるが魔法を使えるレベルじゃなかった。
だからメーチェに魔法を使って私が家の敷地内から出た瞬間に服を街に行っても目立たない格好に変えてもらうよう頼んでいた。家の中だから舞踏会などと比べたら地味なドレスとはいえ、街中に降りたら目立ってしまうことは避けられないのだから。
「とにかくお食事の時間までに着替えちゃいましょう~。あ、でも、今日は結構汚れちゃってますね。先にお風呂にしちゃいます~?」
「そうしよっかな」
「は~い」
メーチェは部屋を出て行った。その後ろ姿を見送ると私は椅子に座る。
多分メーチェは私の元気がない理由が本当はヒユノー本人に無いことに勘付いている。私が今更ヒユノーに怒られた程度で落ち込む性格をしていないことは知っているし、メーチェは昔から私の感情の機微に敏感だった。さすがに本気で騙すための嘘を吐いてしまったからだという理由までは気付いていないと思うけど。
メーチェはいつだって私の気持ちに気を遣ってくれている。着替えよりお風呂を優先させたのも私に温まって落ち着いてもらおうという考えからだろう。語尾を伸ばしがちな喋り方をしているから初めての相手にはあまり何も考えていないと思われがちだが、メーチェの優しさに私はいつも助けられていた。
私がコーデリアだったらしいということをメーチェは知らない。知らないからこそ私がコーデリアとしての記憶がなくて悩んでいたときにずっと側にいてくれたのがメーチェだったのだ。私が落ち込んでいるとメーチェはこっそりクッキーを多めにくれたり、皆に内緒で夜一緒に寝てくれたりと、何も聞かずに気を回してくれるメーチェのおかげで今の私があると言っていい。
こんな日のお風呂はメーチェが背中を洗ってくれる日も多い。今日もそうだといいなと思いながらメーチェの準備が完了するのを待っていた。
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