第38話 帰還と再開
十二の道場すべてを巡り、モードチェンジを完全に解放したジョージは、
いよいよゴシャンの山を下る準備を整えていた。
アライアンスへの連絡は、
日課となった気の集中訓練を終えた直後に取る事にしていた。
特殊通信機からアンジェラの声が響く。
「ジョージ、こちらアライアンス本部。
どうしたの?修行は順調か?」
「……実は終わってこれから戻ろうと思ってたところだ」
「それは好都合だわ!
例の作戦について準備が整ったので至急セントラルに帰還してほしい」
「わかった。すぐ戻る」
ジョージは短く答えると、通信を切り、道場に別れを告げた。
キャンとユラは道の入り口まで見送りに来てくれた。
「……もう行くのか?」
「ああ。ここで得たすべてを、ザーグぶつけるためにな」
ユラ。エイリンは寂しそうな表情で別れの言葉をジョージに伝えた。
「寂しくなるわ……これから犬家はますます強くなるわ。
戦争が本格化した時には必ず駆けつけるからね。」
キャン・トンも頷く。
「そして、団体戦……頼みは必ず実現させる。
これからの時代のために...お前の言葉で、
我々は変わることができた。心から感謝する。
困ったときは何時でも連絡してくれ、ゴシャンの民はこの恩は決して忘れない!」
ジョージは拳を胸に当て、いつものように礼を取った。
「こちらこそ感謝する。みんなのおかげで強くなれた。
ゴシャンでの日々は、一生忘れない。また会おう!」
そのまま背を向け、山を下っていく。
その背中にはさまざまな思い、そして数々の絆と願いが宿っていた。
ゴシャンの麓にある宇宙ポートには、
乗ってきた小型のアライアンス専用シャトルが待機していた。
ジョージが搭乗許可証を提示すると、無人の操縦ユニットが静かに迎え入れる。
コックピットに座り、出発コードを入力すると、
シャトルがゆっくりと浮かび上がり、青空を突き抜けて大気圏を抜けていく。
「……さあ、戻るか」
窓の外に広がる宇宙の星々を見つめながら、ジョージは静かに呟いた。
「……みんなもう少し待ってくれ」。
次なる戦場は全宇宙の運命を懸けた戦いだった。
ジョージを乗せた小型シャトルは、
アライアンス本部のあるセントラル都市宙港に静かに着陸した。
ハッチが開くと、迎えに現れたのはアトラス隊の副艦長――マリア・ミレーヌだった。
鮮やかなルミエルの装束に身を包んだ彼女は、
腕を組んでいつも通りジョージを観察していた。
「ようやく戻ったのね。随分と時間をかけたじゃない」
「悪い。ちょっと濃いな修行をしてたもんでな」
マリアは鼻を鳴らすようにして、にやりと笑った。
「どうやら“成果”は期待できそうね。艦内で皆が待ってるわよ」
そのまま二人はアライアンス本部からアトラスへと移動する。
艦内に足を踏み入れた瞬間、ジョージの帰還を祝うように数人の隊員が集まってきた。
「おーい!ジョージ!久しぶりだな!」
厳格な声で向かい入れてくれたのは、シェンダオ出身の格闘士リンだった。
以前はどこか遠慮がちだった彼の顔に、純粋な興味の色が浮かんでいた。
「リン。元気そうだな」
「もちろんだ。いきなりだが、あんたの修行の成果ちょっと見せてもらえないか?」
「――模擬戦か。いいだろう、こちらも修行の成果を確かめたいところだった」
艦内訓練場
円形の訓練スペースにはアトラス隊の全クルーが集まっていた。
狙撃手のフェリシア、機関士のアーサー、医療担当のトモミ、
そして魔導士のキャシー、アルノコンビとアリシアまでもが見守る中、
ジョージとリンが中央に向かい合って立つ。
マックス艦長が始まりの合図を出す。
リンは気の流れを一点に集中させ、気迫あふれる構えを取る。
だがジョージは、微笑んだまま構えを取らなかった。
「……構えないのか?」
「今はその必要がないんだ」
リンが先に動く。
軽やかなステップとともに放たれた連撃を、
ジョージはモードチェンジ《蛇》で紙一重に躱すと、
逆に手刀で返す。
「速ッ!……なんだ今の動きは!?」
「これが修行の成果ってやつだ」
続けざまに《虎》《鶏》《馬》と素早くモードを切り替えて攻守を組み立て、
リンの攻撃をことごとくいなしながら反撃するジョージ。
それを見ていた仲間たちの表情が一変する。
フェリシアは思わず息を呑み、
キャシーは「今の動き……あれは、別々の流派!?」と驚きの声を上げた。
アーサーは目を見開き、アルノコンビですら黙り込むほど。
「今の蹴りは鶏家、今の踏み込みは馬家……そんな、まさかゴシャンの全流派を…」
とアリシアが半ば呆れたように呟く。
リンもまた、拳を交えながらその事実に気づき、思わず口を開いた。
「……あんた、まさか全部の道場を……!?」
リンはやがて息を切らし、両手を挙げて笑いながら降参した。
「……あんた、全流派を使うとか相変わらず規格外すぎだろ。
また一段と化け物じみたな」
「ありがとう。それだけゴシャンは素晴らしい場所だったよ」
拍手が響く中、後方のドアが開き、アンジェラが現れた。
「ジョージ、帰還おめでとう。少し時間をもらえるかしら?」
「……もちろん」
アンジェラの背には重圧のような気配が纏われていた。
「やったのよ、これからミネルバ教の代表団がこちらに来ることになっているのよ。
もちろん君にも同席してもらいたい」
ジョージはその言葉を聞いて、拳に力が入った。
「……本当か!やっと、家族の手がかりに辿り着けるかもしれないんだな」
その瞳には、これまでの戦いで見せていた目とは違う、
優しさと確かな希望の光が宿っていた。
アトラス艦のブリーフィングルームを出たジョージは、
マックス艦長と共にアンジェラの執務室へと向かった。
廊下を進みながらも、ジョージの心は静かに高鳴っていた。
家族の手がかりが、もうすぐそこにある――そんな予感が胸を締め付ける。
やがて二人は重厚な扉の前に立った。
マックスが軽くノックすると、すぐに自動で扉が開き、
室内にアンジェラの姿が現れる。
「来てくれてありがとう。ジョージ、そしてマックス」
アンジェラは椅子から立ち、窓の外に広がる星空を背景に、
いつもより厳しい雰囲気で語り始めた。
「まず今回の会談が実現できた経緯も共有したほうがいいと思うの。
前回一緒に話した直後ミネルバ教会にアプローチを試みたけど難航していたのよ。
だけど最近になって教皇が失脚して、新しい教皇が就任したのよ。
そして再度連絡を取ってみたところ、すんなり会談を受け入れてくれたのよ。」
「ミネルバ教側でもいろいろ起きたんだな」とジョージが反応する。
「そうみたいね。何はともあれこれで実佐さんの情報が得られるかもしれないわ」
アンジェラの言葉に、ジョージはますます希望を抱くようになっていた。
「ミネルバ教の代表として来るのは、新しく教皇に就任したカロリン・ルコック。
そしてその夫であり、
側近を務めるロマン・ルコック司教と聖女が同行することになっているわ」
「ルコック……夫婦で牛耳ってるのか?」とマックスがつぶやく。
「ええ。そして、もうひとりの……聖女」
アンジェラの言葉に、ジョージの眉が動いた。
「聖女?……誰なんだ?」
「それが、私にもまだ情報が降りてきていないの。
教皇が直々に連れてくるらしく、詳細は極秘扱いらしいわ」
ジョージはしばし沈黙し、やがて小さく息を吐いた。
「……一つ頼みがある。
会談の最中にでも、妻の実佐について、情報を聞いてもいいか?」
アンジェラは目を細め、少しだけ笑った。
「君はそれが目的だものね。……わかったわ。
ただし、今回の会談はプロメテウスへの進攻と、
融合体に関する議題が中心である事だけは忘れないでね」
「もちろん。心得ている」
――数時間後。アライアンス本部のアンジェラの執務室
その扉がゆっくりと開かれる。
最初に入ってきたのは、神々しい白金の装束を纏った女性
――ミネルバ教会教皇 カロリン・ルコック。
鋭い目と堂々たる態度が、彼女の強い意志を物語っていた。
その隣には、柔らかい物腰ながらも冷静な瞳を持つ、
ロマン・ルコック司教が控えていた。
そして更に後ろからゆっくりと現れたのは
――顔をヴェールで覆った、小柄な女性だった。
その姿を見た瞬間、ジョージの胸が締め付けられる。
(……まさか)
女性が、ゆっくりとベール越しにジョージを見つめる。
そして、かすれたような、しかし確かな声で言った。
「……あなた……?!」
その声を聞いた瞬間、ジョージは目を見開いた。
「実佐……!」
「!!!!!」一同が驚いた表情をする。
妻の名を呼んだジョージには、すでに涙が目に浮かんでいた。
ジョージは駆け寄り、震える手で実佐の肩に触れる。
「本当に君なのか?無事だったか!怪我は?何か辛いことは……」
実佐は優しく微笑み、静かに頭を横に振った。
「大丈夫よ。あなたこそ……元気そうで安心したわ」
その言葉を聞いたジョージは、もう抑えきれなかった。
「実佐……!」
彼は彼女をしっかりと抱きしめ、その額にそっとキスを落とした。
「心配したんだぞ……もう、二度と離さないからな!」
その再会の光景を見たアンジェラとカロリンは思わず笑みを浮かべていた。
「……まさか、あの聖女が……彼の妻だったとは」アンジェラが呟く。
「……運命とは時に、厳しくも美しいわね」カロリンはアンジェラに語りかけた。
やがてジョージは涙を拭い、落ち着いた声で尋ねた。
「……どうしてた?何があったんだ?」
実佐は深く頷き、ゆっくりと口を開いた。
「……いろいろ、あったわ~。」
アンジェラとミネルバ教のみんな、
そしてマックス艦長は静かに実佐の話を聞き始めた。
「……何から話そうかしら?」
こうして、転生してから長きにわたる旅の果てに
――ジョージは、ついに家族との再会を果たしたのだった。
そして実佐がゆっくりと転生直後からのいきさつを語り始める
ジョージ編、完
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