第37話 ゴシャンの武術

ユラは壁にもたれ、蒼白な顔で床に残っているザーグの影を見つめていた。

ジョージはゆっくりと近づき、拳を握りしめたまま、静かに言った。

「やったぞ……これなら行ける!」

瓦礫音と後、融合体が消滅した洞窟内には、しばしの静寂が訪れた。

ジョージは深く息を吐き、全身から力が抜け落ちていくのを感じながら、

崩れかけた壁にもたれた。

「……レベルアップか」

浮かび上がるウィンドウ。

――LEVEL UP:Lv61――

そして、視線の先には力尽きたように壁へ盛られているオウの姿があった。

「……まだ、生きてるな」

ジョージが歩み寄ると、ユラはゆっくりと顔を上げた。

その表情には、戦いの中で全てを吐き出した者だけが持つ、達成感があった。

「……ジョージ。俺は……どうなる?」

その問いに、ジョージは言葉を選びながら答えた。

「お前の行動は決して許されるものじゃない。だが、最後の最後に助けてくれた。

その恩は返したい」

「……本当にすまぬ、許されることではないと分かっていたが犬家を守りたかった。

ただそれだけだったんだ」

その言葉に、ジョージは静かに頷いた。

「……忠義か。お前の《犬モード》は、まさしくその象徴だからな」

ふと、ユラの肩が揺れた。

小さく、涙が落ちる音がした。

「……俺は何てことを......止めてくれてありがとう......」

それは、後悔の言葉であり、感謝でもあった。

ジョージは少しだけ笑みを浮かべ、手を差し出した。

「このことだが、俺がどうにかする。キャン・トン師範のことも何とかしてみる。

……少しだけ、俺を信じてくれ」といい終わったらジョージは手を出した。

オウはしばらくその手を見つめていたが、やがて意を決したように、その手を取った。

「……ありがとう、ジョージ」

その瞬間、洞窟の上部から小さな振動が走った。

「地形が崩れ始めてる。」

ジョージは崩れかけた床を慎重に進み、

気を失っていたキャン・トンの身体を背負い上げた。

その重みを感じながら、ユラとともに洞窟を脱出する。

地上に出たとき、東の空には淡い夕焼けが広がっていた。

岩肌が黄金に照らされ、かすかな風が吹き抜ける。

オウは立ち止まり、静かに言った。

「ジョージ、お前は次どうするんだ?」

ジョージはその問いに、空を見上げながら答えた。

「シェンダオでやるべきことは終わった。

そろそろ戻るか──アライアンスへ。ザーグとの戦争を終わらせるため、

この力を使う番だ」

彼の瞳には、もう迷いはなかった。

そしてその背に、十二の流派の教えと、仲間たちとの絆、

そして忠義の証が宿っていた。

「うっ……ここは……?」キャン・トンがうっすらと目を開いた。

「道場からちょっと離れた場所だ」

ジョージは慎重にキャンに近づき、呼吸を確認した。

まだ意識は混濁している様たが、命に別状はない。

「……お前は……ジョージだったな」

「そうだ」

キャンの視線がユラに向かう。

「なぜ……お前がここに……?」

ジョージは即座に口を開いた。

「実は犬家の師範、

ユラがどうしてもあなたと二人っきりで話したいと俺に願い出てきてたんだ。

そのため、俺が気絶させて……ここまで運ぶ計画だったんだ」

ユラは黙っていた。

その表情には、何かを飲み込むような沈痛さがあった。

キャンは眉をひそめたが、それ以上は追及しなかった。

「……そういう事か……」

しばしの沈黙ののち、ジョージは背を正して、真剣な口調で話始めた。

「キャン師範。

今回の戦いと修行を通して、強く思ったことがある。

現在の天下無双大会は、個人の力のみを評価しすぎている。

だが、今の戦争は違う。連携、補助、戦略──それらが重要になっている」

キャンは静かに聞いていた。

「……続けろ」

「犬家の技術は、戦術に特化した極めて実戦的なものだ。

それが大会の構造によって冷遇され、

長らく評価されていないのは明らかにおかしいと思う。

よって一つ頼みがある、その在り方を変えてほしい」

「どういう事だ?」

「個人戦だけでなく、各道場から選出された者による団体戦形式の導入をすればいい。

そうすれば、犬家のような戦術型の流派にも正当な評価の場が与えられる」

キャンは目を細め、天を仰いだ。

「……俺も考え方を変えないといけないな。

今後の在り方も、そして宇宙の未来にに対しても」

キャンは静かに頷いた。

「分かった。来年の天下無双大会──団体戦を導入しよう」

その言葉に、ユラの肩が小さく震えた。

「これは本当に現実なのか……」

ジョージは真っ直ぐにキャンを見つめる。

「今の世に必要なのは、力の集中ではなく、力の調和だ」

キャンはふっと微笑んだ。

「……お前、変な奴だな。

自分の故郷でもないところのためにそこまで真剣に考えてくれて」

ジョージも笑って頷いた。

「未来のためだ、キャン・トン師範」

その後、ジョージはキャン、ユラと共に道場へと戻っていった。

道場に戻ると、弟子たちは驚きと安堵の入り混じった表情で駆け寄った。

「師範が……!無事に……!」

弟子たちがキャン・トンを囲み、手当を始めたその脇で、

ジョージとユラは静かに立っていた。

「犬家の評判がどうであれ、お前たちの武術は本物だ。

戦術的な観点か……ユラ、俺にもいろいろ教えてくれ」

ユラは苦笑いを浮かべ、静かに頭を下げた。

「もちろん……一緒にゴシャンの武術を更なる高みへ伸し上げよう」

「これから更にここの武術は強くなるな」 ジョージは断言する。

その言葉に、弟子たちの表情が変わる。

憧れと、誇り、そして救いのような眼差し。

ジョージは静かに拳を胸に当て、一礼した。

「ゴシャンとシェンダオの勇士に心から感謝する、いずれまた会おう!」

そして、新たな誓いと共に

──ジョージはアライアンスへ帰還する決意を固めるのであった

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